口腔粘膜を損傷した際の機械的痛覚過敏発症機構の解明を目的としてTRPチャネルに着目して研究をすすめている。これまでTRPA1に着目して実験を行ってきたが、近年、機械的痛覚過敏に対しTRPA1の他にTRPV2の関与が注目されている。本年度では以下の項目を明らかにした。頬粘膜を切開し、熱及び機械痛覚過敏が発症した切開処置後3日目のラットにおいて、①切開部を支配する三叉神経節(TG)細胞ではTRPV2の発現が未処置ラットと比較して有意に増加する。②TRPV2のアンタゴニストであるトラニラストを切開部に投与して行った逃避反射閾値測定の結果、熱及び機械痛覚過敏がコントロール群と比較して有意に抑制される。③切開処置により増加したTRPV2がどのような細胞で増加しているのかを調べるためにIB4との共発現を解析した実験では、切開処置後のTG細胞では未処置と比較してTRPV2陽性かつIB4陰性の細胞が有意な増加を認めたことからペプチド性のニューロンでTRPV2は増加する。以上のことから、頬粘膜切開処置後の熱及び機械痛覚過敏の発症にはペプチド性ニューロンに発現するTRPV2が関与することが明らかとなった。頬粘膜切開部下流の疼痛発現機構に対し免疫応答系に着目した実験では、切開部からのIL-6の放出についてELISA法にて確認を行ったところ、切開処置後3日目では放出は認めるものの、未処置ラットと比較して有意な増加を認めなかった。そこで切開処置後1日目に同様の方法にて確認を行ったところ未処置と比較して有意な増加を認めた。よって切開部からのIL-6の放出は切開処置後1日目をピークに減少することが明らかとなった。TRPA1とIL-6の三叉神経節内の共存を免疫組織学的に解析を行った実験では未処置と比較して発現の増加傾向を認めた。よって当初の仮説に修正を加え今後の展開を再考する必要があると考えられた。
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