研究課題/領域番号 |
15H06649
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
黒木 香澄 (石田香澄) 日本医科大学, 医学部, 助教 (80760272)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | クラミジア / 慢性感染 / リソソーム |
研究実績の概要 |
クラミジアはヒトの様々な器官に感染し宿主細胞内で増殖するが、クラミジア感染症は劇症化しづらく無自覚のうちに感染が慢性化していることも少なくない。本菌の慢性感染は骨盤内炎症性疾患や粥状動脈硬化症などを引き起こすことが示唆されている。慢性感染が起こる原因の一つとしてクラミジア菌体のaberrant body(以下AB)への移行が考えられる。クラミジアはペニシリン等の一部の抗菌剤投与、炎症促進性サイトカインであるIFN-γの曝露によって感染性や増殖能を失ったABへと変化し、長期間宿主細胞内で生存すると考えられる。しかし実際にABが宿主細胞内でどのような挙動を示すかについてはよくわかっていない。また、クラミジアは宿主細胞に感染後、リソソームによる消化を回避し細胞内で増殖するがABも同様にリソソーム消化を回避することができるのかについては明らかにされていない。クラミジアの慢性感染に対する新たな治療法・予防法を確立するためには細胞内におけるABの動態を理解する必要がある。そこで平成27年度はリソソームマーカーであるLAMP1を指標にペニシリンまたはIFN-γによって誘導されたABとリソソームの相互関係を調べた。蛍光免疫染色法にてクラミジアとLAMP1の二重染色を行った結果、ペニシリンによってABに移行したクラミジアが感染する細胞では通常のクラミジア感染細胞に比べてLAMP1の発現量が増加することがわかった。しかしながらIFN-γによってABに移行したクラミジアが感染する細胞ではこのような現象は見られなかった。本結果からABの誘導剤の種類によってABがリソソームによる消化を免れることができるかどうかが異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究実施計画の通りaberrant body(以下AB)に移行したクラミジアの細胞内局在をリソソームマーカーであるLAMP1を指標に蛍光免疫染色にて明らかにすることができた。さらにLAMP1やエンドソームマーカーであるRab5、Rab9を蛍光蛋白質Plumとの融合タンパク質としてヒト株化細胞で強発現させる実験系も確立した。以上の成果により、本研究課題の進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究実績を踏まえ、今後は以下について明らかにすべく研究を推進する。 1. ペニシリンによって誘導されたクラミジアのaberrant body(以下AB)はリソソームによる消化を免れることができないのか? 2. 何故ペニシリンによって誘導されたABはリソソームによる消化を免れることができないのか? まず上記1について明らかにするために平成27年度に確立したリソソーム/エンドソームのマーカーを過剰発現するヒト株化細胞を用いてペニシリンによって誘導されたABの細胞内局在を共焦点顕微鏡で観察する。また蛍光免疫染色法でも同様に観察し、ペニシリン誘導性ABとリソソームの相互作用を詳細に解析する。 また、クラミジアの宿主細胞内での生存には本菌の表面に局在するIII型分泌装置から宿主細胞へと分泌されるエフェクター蛋白質が必須であり、これらの蛋白質がリソソームとクラミジアの融合を阻止するのに働くと予想されている。そこで上記2について明らかにすべく、ペニシリンやIFN-γによって誘導されたABと通常のクラミジア菌体のIII型分泌装置エフェクター蛋白質の遺伝子発現量をqRT-PCRで比較する。次にペニシリンによって誘導されたABで発現低下が認められたエフェクター蛋白質をピックアップし、それらの機能について解析する。具体的にはこれらの蛋白質をHeLa細胞などのヒト株化細胞に強制発現させペニシリン存在下でのクラミジアの細胞内局在や増殖能を明らかにする。またペニシリンによって誘導されたABで発現低下していたエフェクター蛋白質を過剰発現するクラミジア株を作製し、ペニシリン存在下でのクラミジアの細胞内局在や増殖能を確認する。これらの実験によりペニシリンによって誘導されたABがリソソーム融合を回避できないメカニズム、さらに通常クラミジアがリソソーム融合から逃れるのに必要な蛋白質を明らかにする。
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