本研究の目的は、正常組織と腫瘍組織の微小循環の差異に着目し、正常組織の障害を起こすことなく、腫瘍内の薬剤分布を最適化する、動注療法用の新たな薬剤送達系を開発することである。具体的には、膜乳化法を用いて、比較的均一な抗癌剤-リピオドール懸濁液(単分散系エマルジョン)を作成することを目標としている。本研究の第一段階は、様々なサイズの膜を用いて目標とする10μm以下のエマルジョンを作成し、その物理化学的特性や安定性を検討することである。次に第二段階として、動物実験にて単分散系エマルジョンの挙動を調べることを予定である。研究計画書に示したとおり、平成27年度の目標としては第一段階を終了することであった。以下実際の成果について述べる。 まず3μm及び5μmの膜を使用し、直接膜乳化法を用いてエマルジョンの作成を試みた。エマルジョンは二段階の乳化によって作成され、二次乳化の際に直接膜乳化を行う。安定したエマルジョンの作成には適切な一次乳化が肝要である。一次乳化の方法を検討したところ、攪拌機を用いた乳化が最適であるという結論に達した。しかし安定したエマルジョンを得ることに難渋し、試行錯誤を繰り返し、複数回の実験を要した。またエマルジョンの安定には、適切な界面活性剤の選択が必須であるが、その選定に時間を要した。最終的に光学顕微鏡レベルで観察しうる限りにおいて、安定したエマルジョンの作成に成功した。現在はエマルジョン粒子径の正確な分布を求めるため、粒度分析を行っているところである。
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