本研究は,1970年代から現在に至るまでフランスを中心に現代音楽の多くの作曲家に多大な影響を与えているスペクトル音楽における新しいテクノロジーと創造性の関係を考察することを目的とし,本年度は主に2点の作業に取り組んだ。 第一に資料収集・分析をフランス国立音響音楽研究所(IRCAM)を中心に行なった。その過程において特にカイヤ・サーリアホ,マルク=アンドレ・ダルバヴィ,フィリップ・ルルーといったスペクトル楽派第二世代と呼ばれる作曲家たちの作品研究に取り組んだ。具体的には,コンピュータを用いたスペクトル楽派の作曲法がどのようなかたちで行われているのか,という点を中心に研究を進めた。とりわけ,これらの作曲家が,ジェラール・グリゼーやトリスタン・ミュライユなど,スペクトル楽派の創始者である作曲家たちが提案した作曲法からどのように新たな方法論を打ち出したか,ということに焦点を当てて調査した。この研究結果に基づく論文を現在執筆中である。 第二にスペクトル音楽の作曲法と黛敏郎のカンパノロジーエフェクトの比較研究に取り組み,第20回国際音楽学会東京大会において口頭発表を行なった。この研究において,黛の方法論はスペクトル楽派のものと共通点を持つにも拘らず,なぜスペクトル楽派のように発展せず個人レベルにとどまったのかを検証した。この研究を進める上で日本近代音楽館に保存されている黛のスケッチにも目を通すことにより,黛が具体的にどのようなかたちでカンパノロジーエフェクトという方法論を構築したのかが理解できた。この研究は元より予定していた研究課題ではなかったが,これまで研究代表者が取り組んできた武満徹や細川俊夫といった日本人作曲家の研究にも関わるものであり,今後この研究をさらに深めていきたい。
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