研究課題/領域番号 |
15H06662
|
研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
大澤 篤 明治学院大学, 経済学部, 助教 (30756482)
|
研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
|
キーワード | 地域ブロック / 砂糖産業 / 日本帝国 / 品種改良 / サトウキビ |
研究実績の概要 |
本研究の課題は、品種改良の普及が生産可能性に大きな影響を与えることに着目し、技術革新が実現にむかう具体的プロセスを、サトウキビ栽培を事例として、地域ブロックの観点から明らかにすることにある。そこで2年計画の初年度については、糖業関連の産業政策に関係した資料や糖業試験場に関する資料の収集を中心に調査を進めた。同時に各種統計類に記載されたデータの入力作業を行い、それを利用して砂糖産業各社の競争動態の把握に努めた。というのも栽培品種の転換を行ったのは基本的には農家であるが、しかし耕地の一部を食物自給のために利用することが可能である。そのため商品作物であるサトウキビ栽培を耕作地に全面化させて、現金収入の最大化をはかることはない。この意味で砂糖産業各社は、企業間競争を続けるうえでサトウキビの調達は不可欠であり、したがって企業側に強いインセンティブが与えられる形で品種転換は進んだと考えられるからである。 そこで既存の研究が必ずしも企業間競争の総体的な把握には至っていない点と、1920年代半ば以降に生じる企業合併が、当該産業における大企業体制の確立をもたらした点とに着目して、1920年代の日本帝国内の砂糖需給構造と企業成長の関連を検討した。その結果、砂糖の帝国内自給が未達成という条件下で、財務状況に恵まれた上位企業を中心に投資の活発化と製品販売競争が激化し、収益性の低迷するなかで中堅以上企業同士の合併も含む業界再編が生じたことが明らかとなった。これによって砂糖産業各社が、当該期に積極的にサトウキビの品種転換を進めた動機が把握されたとみることができる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度中は、古書店からの買入も含め、精力的な資料収集を行った。同時に『台湾糖業統計』、『砂糖年鑑』、『製糖会社要覧』といった基本的な統計資料の収集とデータの入力作業を行った。その成果の一部として、1920年代における企業間競争の動態を検討し、サトウキビの改良品種の普及が、砂糖産業各社の企業間競争に影響されていたことを把握した点は、「研究実績の概要」に記した通りである。 この検討と関連して、台湾と沖縄に生産拠点を設けて事業を展開させた、中堅クラス企業である台南製糖の動向を検討して、台南製糖従業員の人的紐帯が利用されて、帝国製糖から台南製糖へと2725POJほか数種のジャワ大茎種が台湾から移入されたことを把握した。台南製糖と沖縄農家との関係については、拙稿において既に後者の側から触れているため、これによってひとまず沖縄における品種転換の展開は資料的な裏付けを得ることができた。 そこで当初の予定では、2015年度中は日本国内の資料収集に集中することにしたが、2016年3月には台湾において資料調査を実施した。その対象は、国史館台湾文献館所蔵の台湾総督府文書と台湾図書館(旧国立中央図書館台湾分館)所蔵の日本植民地期資料である。前者では農事試験場の「製糖試験成績報告」や台湾総督府糖業試験所の設立趣旨に関する文書といった糖業政策関係の資料を発掘し、後者では製糖会社の農事主任会議講演の記録などを入手した。現在、これらの資料の読解を行い、台湾におけるサトウキビの品種転換過程についての分析を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる本年度は、2年間の研究成果の取りまとめを行う。「現在までの進捗状況」に記した通り、2016年3月に台湾において資料調査を実施し、現在その分析を進めている。本年度の課題は、植民地台湾においてサトウキビの品種転換が推し進められる具体的なプロセスを明らかにすることである。本研究が、サトウキビ栽培を事例として、技術革新が連鎖していく過程を、地域ブロックの観点から具体的に明らかにすることを課題としていることから、一連の過程が引き起こされる契機を把握することが重視される。 台湾総督府が糖業振興を目的として試験場を通じた新品種の普及に努めたこと、砂糖産業各社が原料調達状況の改善方策としてサトウキビの単位収穫当り収穫量の増加に努めたことは、既存の研究によって知られている。ただし両者の関連、特に官から民への技術革新主体の転換プロセスについては、必ずしも明らかとはなっていない。この点が明らかとなると、初年度に把握した沖縄の実態とあわせて、地域ブロック内の改良品種普及プロセス全体が解明されるのである。 2015年度の調査を通じて概ね必要資料の所在が明らかとなった。重要と考えられる資料の収集は概ね済んだとは考えているが、研究成果を取りまとめる過程で必要とされる補足資料は適宜収集しなければならない。そのため雑誌『糖業』(三重大学所蔵)をはじめとした同時代的な記事類の収集を中心に、研究成果のとりまとめと並行する形で、引き続き資料調査を実施する予定である。そこには少なくとも1度の台湾図書館(旧国立中央図書館台湾分館)への再調査も含まれている。 以上のプロセスを経て、夏季の長期休暇中に論文作成に目途をつける予定である。そのうえで秋には研究会・学会報告を行うことで第3者の意見を聴取し、年度内に論文=研究成果の公表に至る予定である。
|