本研究は、近代から現代に至る統治の変容と身体管理のあり方を、生体認証技術の使用を軸に描き出すことを目的としている。これを達成するにあたり、研究期間内に三つの作業を予定していた。(1)これまで個別に実施してきた事例研究を踏まえ、近代的統治の特徴を描き出す作業、(2)現代における生体認証技術の特徴を整理する作業、(3)生体認証技術の拡大を現代社会論から考察する作業、である。これらのうち初年度に(1)が終了しており、本年度は(2)、(3)を実施した。 具体的に三つの作業を次の手順で行った。一つ目は、昨年度からの作業を引き継いで、指紋、静脈、虹彩、顔など多様化する現代の生体認証技術の種類やその用途の違い、さらに個々の技術が誕生した背景や技術開発における課題にかんする資料の収集である。そして二つ目の作業として、これらの資料にもとづき、生体認証技術が多様化した経緯と個々の技術が何を目的に開発され、今後何を目指しているのかについて分析をした。これらの作業から、近年の生体認証技術は、ビッグデータやAI(人工知能)との連動が進んでおり、個人を個体として識別する目的を超えはじめていることが見えてきた。この点を踏まえ、三つ目の作業である監視社会論、リスク社会論といった現代社会論を参照しながら、生体認証技術を必要とする社会構造についてさらなる考察を行った。 その研究成果は「生体認証技術による身体管理と秩序化の実践――個人を識別することの先に何があるのか」(明治薬科大学研究紀要,46号,2017,51-62頁)にまとめるとともに、帝国史研究、観光・メディア研究、移動研究など多様な研究分野のシンポジウムや講演会でも口頭発表をした。
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