本研究の特色は,これまでほとんど検証されてこなかった児童養護施設におけるネグレクト児の心理的回復プロセスに焦点化し,支援経過を丁寧に検証していく点にある。 平成28年度は,平成27年度調査で明らかになったネグレクト児13名を対象とし,担当する心理療法担当職員5名に対して50分程度の半構造化面接を実施し,グラウンデッド・セオリー法に基づいて分析した。生活場面と心理療法場面の分析結果を比較した後,これらを合わせて再分析を行い,包括的な実態の捉え直しを行った。 その結果,心理療法導入時の児童の課題として,「会話が続かない」「表現が苦手」「表情が乏しい」「自己決定ができない」といった内容が目立ち,「警戒心が強い」「感情の起伏が激しい」などのアタッチメントに関連する用語が抽出された。これらの課題からの変化として,「遊びを通して表現できるようになった」「セラピストの顔色を窺わず好きな遊びを行えるようになった」「実母への怒りを出せるようになった」などが挙げられ,心理療法場面での一定の成長が確認できた。生活場面では,「不定愁訴が少し増えた」「コミュニケーションがとれるようになってきたものの突発的な暴言・暴力が出るようになった」「学校不適応」「性の問題」などの新たな課題が浮き彫りになった。 心理療法場面での個別のかかわりを通して心理的に回復しつつあることで,これまで生活場面で目立ちにくかった児童が自己表現できるようになり,生活場面で新たな課題を引き起こす可能性も考えられる。特に,言葉での表現が苦手だった児童が言語化できるようになったことでトラブルに発展するケースもみられるため,心理療法場面での成長と生活場面での新たな課題を包括的に捉えていく必要がある。
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