研究課題
アユの群れの内部運動の解析、およびその計算機シミュレーションを行った。ここでは群れ内の個体が他の運動戦略ではなく、まさにレヴィ歩行を行うことによって、群れの情報伝達を最適化しているのかを調べるためのシミュレーションを行った。従来の群れモデルの文脈からは、群れの中での個体の運動は群れの維持を阻害するように思える。が、適度な運動は多くの他個体との相互作用を可能とし、より自己組織的で頑強な群れ形成の助けとなりえることが考えられる。我々は群れの内部空間を仮想的に設定し、その中でエージェントが取る運動戦略を変えながら情報伝達効率を複数の指標から評価した。運動戦略が弾道軌道のように動き過ぎていた場合、まさに群れとしてのまとまりを阻害することが明らかになった。一方で運動がブラウン歩行のように局所に留まるとき、十分な情報伝達効率に至らない。結果として、これら二つの中間に位置するレヴィ歩行を群れ内で個体が行うことは、群れを壊さない限りで多様な個体同士の相互作用を可能とし、最適な情報伝達効率が得られることがわかった。以上の他、さらに、以前から構築していた上記のような個体の群れ内部の運動を生み出す相互作用である予期に基づく群れの計算機モデルを、発展させた。従来モデルにおいては向きの平均化が必須規則だと考えられる。向きの平均化規則に基づく群れモデルでは現実の群れで見られる内部運動を説明するのは難しい。一方我々のモデルは、向きの平均化を用いること無く、予期の相互作用によって、内部運動を伴う様々な種の群れを再現できることが明らかになった。このような内部運動は群れとしての運動において、方向転換の切り替えにおいても重要な役割をもつことが予想されている。我々はさらに、大規模な群れを展開するミナミコメツキガニの実験室内での運動を解析し、群れが一つとしてもレヴィ歩行を行うことを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
一つとなって運動する群れにとって、群れ内部における情報伝達は、根本的な群れ形成・維持および、環境の情報を全体に共有する上で重要である。しかしこれらについていまだ明らかになっていない点が多い。この情報伝達においては群れの内部ゆらぎが重要であり、申請者はこの内部ゆらぎが構造を持つことを初めて明らかにした。また本研究はこの内部ゆらぎによって群れの情報伝達過程がいかに効率化されるかを、実験・理論の両方から調べる包括的な研究であり、従来モデルのような相互作用ネットワークが静的な場合や他の運動パターンではなく、実際の群れで見られたレヴィ歩行が情報伝達を最も効率化させることを示した。このような結果のみならず、さらにミナミコメツキの探索実験や群れの計算機モデルなどについても、複数の国際会議論文、原著論文、学会発表において成果が公表された。
第一に群れの内部運動の特性に関するさらに詳細な解析、およびそのメカニズムを明らかにするために、群れ内部における密集と離散の相互作用を調べていく。従来モデルでは密集と離散の両者はほぼランダムに振る舞うことが予想される。一方で現実の群れにおいて個体はある種の意思決定プログラムを持ちながらも環境に応じて規則を絶えず探索し、更新していくことを実験的に示していく。第二に群れの内部運動がもつ特性に関して、ミナミコメツキガニその他の群れを検証することで更なる普遍性を確立していくとともに、上述のモデルとの照らし合わせを行なっていく予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件)
Artificial Life and Robotics
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