研究課題/領域番号 |
15H06684
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
安井 清峰 早稲田大学, 地域・地域間研究機構, 研究助手 (60756302)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 観衆費用 / 選挙 / 世論 / 紛争研究 / エストニア / ラトビア / 領土紛争 |
研究実績の概要 |
[研究目的・方法] 本研究の目的は,政治指導者に対する世論の支持率や選挙近接性が,国際危機における政治的コストである観衆費用の大きさや顕在度に与える影響,および,その結果として国際紛争の勃発や平和的解決がもたらされるメカニズムを解明することである.それにより,一般に民主主義国において大きいとされてきた観衆費用について,同じ民主主義国内,あるいは異なる民主主義国間で,国内政治状況や時期により,バリエーションが存在することを明らかにする.この目的達成のため,本研究では,ゲーム理論を用いた数理モデル分析,その理論モデルから導出した仮説を実証する計量分析,およびモデルが描くメカニズムを実際の歴史的事象で確認する比較事例分析を行う.
[研究成果] 本年度の主たる研究成果は2点である.第1に,国内世論と観衆費用,国際紛争との相互作用を記述したフォーマル・モデルの構築に取り組んだ.本モデルでは,国際危機において政治指導者は,武力行使の威嚇を撤回すれば有権者の支持を失うというスタンダードな観衆費用に加え,有権者の選好に沿わない対外行動を行ったときもまた,国内的政治コストを支払うと想定した.それにより,従来の観衆費用モデルでは捉えきれていなかった,政治指導者が時に公の場で威嚇を発することを避け,経済制裁,軍隊の動員等,相手国に対しインプリシットな威嚇を頻繁に行ってきたという,経験的な観察に理論的根拠を与えることができる.
第2に,選挙と観衆費用の関係について実証分析を行った.まず,観衆費用メカニズムの顕在度は選挙近接性に依存すると考えれば,政治指導者が,有権者に失政と映るような,相手国に対する要求の撤回や妥協・譲歩を行うのは,選挙が遠いタイミングであると予測できる.この仮説を検証するため,エストニアとラトビアがロシアとの間に抱えていた領土問題を対象とした比較事例分析を共同研究者と行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記研究成果の中間報告の場として,平成27年夏季に米国・サンフランシスコで行われたAPSA(アメリカ政治学会)年次総会で口頭発表の機会を得ることができた.その後,選挙と観衆費用についての比較事例研究の論文は,平成28年度早々に国際学術誌であるJapanese Journal of Political Science誌に掲載された.
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今後の研究の推進方策 |
世論と観衆費用に関するフォーマル分析の論文については,理論メカニズムの例証に用いようと計画していた事例をとりまく国際情勢で,平成27年の秋季に顕著な変化があったため,一部の資金を平成28年度に繰り越すかたちで論文の内容を再検討することとした.それに加え,平成28年度は世論と観衆費用,選挙と観衆費用,それぞれの関係について,本格的にラージN分析を行う.
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