実験経済学において,実験被験者に支払う金銭報酬額と実験で獲得した利得を比例させることを,インセンティブの付与という.近年,実験参加者の視線をアイトラッカーによって測定する手法が実験経済学に取り入られている.しかし,インセンティブの付与と視線運動との関係を検証した研究は存在しない.そこで,本研究課題においてインセンティブ付与と視線運動の関係を検証した.
2015年度に行った実験とその分析によって,研究結果の全体像を把握することができた.しかし,実験結果の分析や他の研究者との議論を経て,より詳細な実験と分析を行い研究結果の科学的妥当性を高める必要があることが明らかになった.そこで2016年度は,2015年度に行った実験の様々な条件をコントロールし,より多面的な実験を行った.基本的な実験の構造は2015年度と同じであるが,課題の提示順序や提示位置などを変化させた実験を120名程度の被験者に対して実施した.そして,2015年度と2016年度の実験結果を合わせて再度分析と検討を行った.
以上の実験と分析を行った結果,2015年度に得られたインセンティブと視線運動の関係が頑健な現象であることを示すことに成功した.特に,ある特徴をもった意思決定課題では,インセンティブの有無が視線運動パターンに大きな影響を与えることを示すことができた.これによりアイトラッカーを用いた経済実験を行う際は,インセンティブの付与について細心の注意を払う必要があることを示すことができた.以上の研究結果を論文としてまとめ,国際学術誌に投稿し,査読を受けている.
|