研究代表者は、日本では総合評価方式と称されるスコアリングオークションという入札方式の下で、「指名競争入札」という繰り返し特定の企業が入札に参加する傾向のある入札方式から「一般競争入札」という自由参入に近い入札方式へと移行したときの効果を、価格と品質の観点から実証的に分析した。スコアリングオークションでは、入札時点で、企業が価格と品質に関する資料を提出し、価格と品質の両方の観点から落札者が決まる。 研究代表者の研究では、入札時点の落札価格だけでなく工事完成後に観察される事後の品質指標にも注目して研究した。その理由は、公共工事の調達では、工事中の技術ショックによる品質劣化や価格上昇の発生の可能性が指摘されているからである。 推計結果は、一般競争入札の導入は落札価格には影響がなかったが、工事期間などの品質指標が改善されるというものであった。例えば、一般競争入札の導入により、工事期間が10%以上短くなるという推計結果を得た。ただし、工事の出来形や耐久性を含む品質指標は一般競争入札の影響を受けていなかった。これらの推計結果についてのありうる説明としては、スコアリングオークションによる品質競争促進政策の成果や評判の効果の存在と考えている。この研究成果をいくつかの国際学会で報告し、海外の研究者を含む多くの研究者と議論を交わした。そして、論文を英文校閲に出し、その校閲結果を踏まえて論文を修正し、国際学術雑誌への投稿準備中である。 本研究の成果と今後の研究の発展の方向性も考察した。一つは国債の入札市場が今後の分析対象になると見ている。国債の入札市場も特定の金融機関に入札参加が限られる傾向があり、談合の存在が疑われているからである。更に、入札を導入することの効果の動学的な側面についても分析を進めていく必要があると考えている。
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