本研究は、タイにおける地域間の教育機会・教育環境の格差の構造および要因を経済状況との関連から明らかにし、タイ教育省が施行する学校教育に関する諸政策および各学校が実施する独自の教育実践が子どもたちの教育機会・教育条件格差の改善にいかに貢献しているかを検証することを目的とする。本研究では、とくに教育機会や教育環境が不十分な状況にある、①小学校に併設された中学校、②小規模な小学校、③少数民族の教育に特化した学校に焦点を当てる。 平成28年度の研究では、「①小学校に併設された中学校」、「②小規模な小学校」、③に関連して「少数民族の教育に特化していない学校」の調査を実施した。フィールドワークは主に北部チェンマイ県で実施し、政策内容の調査はバンコクの教育省で実施した。 「①小学校に併設された中学校」の教育環境の課題や教員・生徒の意識を明らかにするために、9校の正規採用教員、小学校6年児童、中学校1~3年生徒全員に対してアンケート調査を実施した。まだ分析が完了していないが、「①小学校に併設された中学校」に進学する生徒は低所得の家庭の子であり、職業教育学校への進学を希望する子が多い傾向が見られる。今後詳細な分析を進めていきたい。 「②小規模な小学校」では、12校の正規採用教員、小学校6年児童に対してアンケート調査と、各校の校長にインタビュー調査を実施した。さらに比較対象として大規模校の学校でも同様の調査を実施した。親の職業による児童の教育意識の差から、学校が社会階層の再生産機能を有していることが明らかになった。小規模校は教員数や施設設備面が十分ではないことが多いが、小規模校の教員は教育面において小規模校のメリットを感じている。 「少数民族の教育に特化していない学校」では、モン族の村にある学校3校(特別な配慮のない学校)を訪問し、教員と児童にアンケート調査を実施し、参与観察を行った。
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