本研究は、福島第一原子力発電所事故(以下、福島原発事故とする)後3年目と5年目における福島県外への避難を経験した母親の福島県に戻ってからの思いを明らかにすることを目的に、福島原発事故後、福島県外への避難経験があり、福島原発事故発生から3年目の時点で福島県に戻っていた母親で、かつ福島原発事故当初乳幼児を育てていた母親6名に、倫理的配慮のもと、インタビューガイドに基づく半構成的面接を行った。インタビュー内容は、母親が育児や生活している中で生じた(生じている)福島県外避難から福島県に戻った3年目と5年目の思いである。なお、インタビュー内容は、逐語録に起こし質的に分析した。その結果、母親の思いは、子どもに対する思いと母親自身の思いに大別された。育児について、福島県に戻った3年目では、放射線の存在により、子どもを外で遊ばせたくない、子どもへの影響が心配だから外遊びを制限していたといった思いから、5年目では、子どもの行動が気にならなくなってきたといった思いへと変化していた。しかし、子どもへの放射線の影響に対する心配や不安は継続しており、子どもの食生活や生活環境を気にしながら育児している母親の思いがみられた。母親自身について、福島県に戻った3年目では、放射線はなるべく避けたい、福島からできるだけ離れたいといった思いから、5年目では、福島で生活するための判断基準ができたといった思いへと変化していた。しかし、避難しなかった母親に放射線に関する会話はしにくいといった避難経験の有無に伴う人間関係に対する思いは継続していた。これらのことから、低線量による健康被害について明らかになっていない中、継続的かつ長期的な視点で母親の生活や育児をサポートしていく必要性が考えられた。
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