口腔扁平上皮癌細胞株HSC-3-34に発現しているフコシルトランスフェラーゼ(fut1)をmiR RNAiを用いてノックダウンして、Lewis yがノックダウンされた細胞株(Lewis y-)とコントロール細胞株(Lewis y+)におけるEGF(2.5 ng/ml)刺激後の細胞形態を検討した。その結果、興味深いことにLewis yのノックダウンによって、EGF刺激後、突起を伸ばしていた細胞が丸くなり、中には浮遊する細胞も多く認められるようになった。また、EGF刺激後の細胞接着能に深く関係するFocal adhesion kinase (FAK)およびpaxillinのチロシンリン酸化レベルを検討した結果、Lewis y+細胞と比較して、Lewis y-細胞の方が、どちらの分子のリン酸化も抑制されることが明らかになった。 次に、Lewis y発現による細胞接着能への影響を細胞接着解析システム(RT-CESシステム)を用いて解析した。その結果、Lewis y+細胞の方がコラーゲンタイプIあるいはフィブロネクティンへの接着能は強かった。また、細胞接着時に上昇するpaxillinのチロシンリン酸化レベルが、Lewis y-細胞では抑制された。 以上の結果より、口腔扁平上皮癌細胞はLewis yの発現が低下することで、EGF刺激により剥がれやすくなり、また、細胞外マトリックスへの接着能がむしろ低下することが示された。このことより、癌細胞がより異なる部位へ移動しやすい環境をLewis yの発現低下が作り上げ、癌細胞の悪性形質増強の一端を担っている可能性が示唆された。
|