昨年度は、幼児の感覚間相互作用に関する基礎理論的な調査および考察が主となったため、最終年度である本年度は、実践的調査及び分析、総合的考察を主とした。 そこで保育という通常の環境・教育方法ではなく、ワークショップという形式で自由度を高め、幼児の活動意欲をより促進する素地を用意し、表現及び鑑賞活動を行った。その結果、多くの幼児が日本の伝統絵画がもつ装飾性や工芸性などの特性に反応し、視覚以外の触覚や身体感覚等の諸感覚を使った活動を志向する結果が得られた。 ただし、本実践では、1.幼児のみ、2.日本伝統絵画に限定、3.視覚と触覚や運動感覚との関連に限定、4.記憶や思考との関係の考察が十分でない等の課題も浮上した。特に「4.記憶や思考」については、鑑賞過程におけるinput(みる)とoutput(言語化等)を媒介する働きであり、さまざまな感覚刺激がそれらを活性化することを検証することは、本研究では不十分であったと考える。 そこで、補完的実践として、指導者から積極的に幼児の感覚を促進する手立てを与えることを試みた。当初予定していなかった嗅覚刺激を活用し、造形活動の実践を行った。その結果、草木等の匂いからイメージして表現する、香水の匂いから想像したイメージを 表現する等の実践から、嗅覚刺激が学習者のイメージ形成に影響を与えること、またその後の活動では、より積極的態度で日本の伝統絵画を鑑賞するようになったことが明らかになった。 このように、幼児における感覚間相互作用の活用が、能動的な鑑賞活動に大きく資することがある程度検証されたと考える。
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