研究実績の概要 |
Metaphor and Thought(1993)の中から、特に教育に焦点を当てた2つの論文、Petrie, H.G, & Oshlag, R.S, “Metaphor and learning”及びSticht, T.G, “Educational uses of metaphor”を検討した。その中で、たとえ科学的な事項の理解であれ、学習であれ、そこには日常生活で使用されるのと同じくらいの重要性をもって、メタファーが介在していることが明らかになってきた。例えば、学習者がまったく未知の知識を習得する場合においては、メタファーによる類似性を起点として「形式」化することにより新たな知識を創造していくことが可能になると目されるのであり、こうした考察によって、マルセル・モースの贈与交換論と言語学における隠喩論の関連性において「形式」を1つの焦点としてきたここまでの研究成果に、さらなる厚みを増すことが可能となってきた。また、兵庫教育大、および北海道大での研究交流を通じて、本研究の主題ともいえる「教育人類学」という学問の位置づけについて、大きな示唆を得た。特に、西洋におけるeducational anthropologyが二分法的な人間学と人類学のカテゴリーではなく、少なくとも生物学的、哲学的、文化人類学的、歴史的人類学といった多様な側面から考えられてきたことを踏まえることが可能になった点は大きい。こうした結果から、日本の教育人間学が哲学的なアプローチに大きく拠っている点を改めて確認するとともに、たとえば、歴史的偶有性や差異性を視野に入れた「歴史的人間学」のアプローチを参照することで、本研究の目的である新たな「教育人類学」の展開を多角的に進めることが可能になるという見通しを得た点は、本年度の研究における成果の一つである
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