平成28年度も引き続き、教育人間学、教育人類学関連の史資料の読解を進めた。また、北海道大学での研究交流も継続して行った。 具体的研究内容としては、特に、昨年度、educational anthropologyが二分法的な教育人間学と教育人類学というカテゴリーではなく、少なくとも生物学的、哲学的、文化人類学的、歴史的人類学といった多様な側面からのアプローチが可能であることが明らかになったことを踏まえ、教育学におけるマルセル・モースの贈与交換論の位置づけについて再考を行った。 まずは、上記の4つのカテゴリーを持つ教育の人間学的・人類学的アプローチを「教育のアンソロポロジー」として捉え直し、日本におけるその研究動向を整理した。そのうえで、これまで哲学的なアプローチによって取り上げられることの多かったモースの贈与交換論を、「教育のアンソロポロジー」の枠組みの中で再定位することを試みた。その結果、「贈与」という社会的事象とその言説を丹念に描いていくような記述的作業の蓄積であるモースのテクストを哲学的探求によって構造化して抽出することが、「贈与」と「交換」の間にある差異を消失させており、モースの研究成果を十分に引き取ることができているとは言い難い状況であることが浮かび上がってきた。 こうした成果を踏まえることで、モースの研究が、哲学的研究とも文化人類学的なフィールドワークそれ自体とも一線を画したところにあることが明確になったこと、また、モース自身が示しているような歴史的な視点からの研究を進めることで「教育の歴史人類学」としての展開が可能であるとの見通しを得ることができたことが、本年度の研究成果である。 今後は、こうした歴史的視点からの「教育のアンソロポロジー」を視野に入れて研究を継続することで、伝統文化と教育を結ぶ新たな教育学研究を構想することが可能になるものと目される。
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