本研究は、「計算的思考」という概念の分析を軸に、ハイデッガーの遺稿「黒ノート」を、前期から後期へ向かう彼の思想動向に即して読み解くことで、そこで語られる特異なユダヤ論の真意とその背景の解明に取り組んだ。 主な研究成果は、以下の3点である。①現在「反ユダヤ主義的」とみなされているユダヤ論の背景には、「計算可能性」の問題に依拠した、ユダヤ‐キリスト教批判が存している。②この批判はまた、「存在の思索」による信仰の間接的な擁護を担いうるものとして特徴づけられる。③この観点から、計算的思考に対して信仰的心情を重んじたパスカルの護教論が積極的に評価される。
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