本研究はアーダルベルト・シュティフターとテオドア・シュトルムの文学を考察対象とし、「子ども」の精神的・身体的「障がい」描写に、ロマン主義的「子ども」像との共通項と同時に、19世紀後半の社会問題意識の表出を見出すことを目的とする。平成28年度の研究成果は以下の通りである。 まずシュティフターの『電気石』における頭部腫瘍をもつ少女に関する考察を、「歪められたロマン主義的「子ども」――シュティフターの『電気石』における少女の「障がい」について」として、2016年7月発行の大谷大学『西洋文学研究』第36号に掲載した。また、2016年9月16日に開催された大谷大学西洋文学研究会では、同作において、少女に対する療養と教育を通した再社会化がどのように試みられているのかを検証し、口頭発表を行った。 さらに、シュティフターの『アプディアス』における盲目の少女に関する研究も進めることができた。まず、2016年10月22日に開催された日本独文学会秋季研究発表会のシンポジウムにて、娘の目が見えないことに気づいた父親が、その治癒のために奔走する姿の背後に、金銭という外的尺度の社会的浸透が垣間見えることを論じた。その研究成果については日本独文学会研究叢書としてまとめている最中である。さらに、2016年12月11日開催の日本ヘルダー学会秋季研究発表会で発表し、シュティフターの視覚欠如の描写が、ヘルダーの影響を受けながらも最終的に放棄する形で表出していることを検証した。 シュトルムの『白馬の騎手』に関しては2016年8月にドイツ・フーズムを訪れ、資料収集を通して最新の研究動向の把握に努めた。その結果、これまで軽視されがちであった少女ヴィーンケの発達障がい描写が、綿密に用意された設定であることが明らかになった。これらの成果については、2017年10月の日本独文学会秋季研究発表会にて発表する予定である。
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