研究課題/領域番号 |
15H06729
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
河野 尚子 同志社大学, 研究開発推進機構, 助手 (10757412)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 兼職 / 競業避止義務 / 守秘義務 / 労働契約 / 兼業 |
研究実績の概要 |
本研究は、労働関係において、良好な雇用・職場環境を築くために、いかに労働契約上の権利義務を通じて法的に反映すべきか(付随義務論)、法のあり方としての視点を明らかにすることを目的としている。具体的には、労働契約における兼職法制に焦点を当てて、さらに、その中の兼職避止義務と関連する、競業避止義務、守秘義務との関係性を明らかにする。研究テーマに関連する成果は、以下の通りである。 まず、労働者の在職中の守秘義務をめぐる法的課題(違法性の判断・時間的適用範囲・契約上の守秘条項の有効性)について、研究に取り組んできた。ドイツ法では、労働契約上の守秘義務をめぐって、不正競争防止法および契約上の守秘義務の議論がみられるところ、その根拠、保護対象や違法性の評価における視点は参考にすべき点が多いものと考える。そこで、わが国における在職中の守秘義務をめぐる議論を概観した上で、ドイツ法の議論を紹介し、その比較的考察を行った。この研究成果は、次年度公表予定である。 また、わが国における従業員の引抜きをめぐる法的課題(違法性の判断および法律効果)について、ドイツ法との比較法的考察を行った。ドイツ法では、従業員の引抜きをめぐって、詳細な議論がみられることから、その適法性審査のあり方について分析を行った。それに伴い、研究会において、「ドイツにおける引抜きをめぐる法律問題」に関する報告を行った。 その他、フランチャイズ契約を締結した加盟者(フランチャイジー)の労働組合法上の労働者性の概念及び判断要素をどのように解すべきかをめぐって、近年多くの議論がみられる。そこで、フランチャイジーの労組法上の労働者性を肯定した労委命令について、考察を行い、成果を公表した(「フランチャイジーの労組法上の労働者性―ファミリーマート事件・東京都労委決平27・4・16―」〔査読有〕日本労働法学会誌126号(2015年10月))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
兼職法制の問題の中でも特に重要とされる、労働契約上の付随義務の中の兼職避止義務について焦点を当て、それに関連する在職中の守秘義務や競業避止義務について研究を行ってきた。これまで、兼職をめぐる紛争類型のあり方、兼職を理由とする不利益取扱いの適法性、また、兼職避止義務と密接に関わる在職中の守秘義務(秘密の保護対象に関する認定の問題)や競業避止義務(従業員の引抜きの適法性)に関して、研究を深めてきた。さらに、この研究を発展させ、使用者が労働者の兼職や競業を把握・管理する際に問題とされる、プライバシー保護との関係や、社会保障法との交錯領域(労災保険給付の算定のあり方等)についても研究を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、平成28年度の計画に沿って、研究を進めていく。とりわけ、兼職法制との関係について、使用者は、労働者の健康確保や競争上の利益保護の観点から、労働契約締結時や展開過程において、労働者の兼職、競業等を把握する必要があり、その際、私生活・プライバシーの保護との関係で問題となりうる。現在、我が国では、この点について明らかにされていないものの、労働者の個人情報保護の観点から、新たな視点での研究が求められる。これに関して、ドイツ法では、使用者の質問権の問題として、使用者は労働者の採用時に兼職の有無を質問できるものと解されている(Preis,Der Arbeitsvertrag Handbuch der Vertragsgestaltung,4. Aufl.,2011)。こうした観点から、労働者のプライバシー保護との関係において、労働者の兼職の有無・程度について尋ねることの適法性を考察することには意義があり、この研究を通して、最終的には、良好な雇用・職場環境を築くことのできる法解釈・法政策の構築に寄与することができるものと考える。
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