近年、終身雇用や年功型賃金といった雇用保障に関わる企業と正社員の関係の変化や技術革新に伴う産業構造の変化等に対応するため、兼業・副業のような柔軟な働き方の在り方が検討されている。本業とは別に副業をもつことによる、パラレルキャリアとしての働き方(キャリアの複線化)は、職業人生を通して満足いくキャリアを展開していくことを可能にする。実際に、兼業・副業を容認する企業もみられる傾向にある 。 しかし一方で、就業規則等により兼業・副業の許可制または禁止条項を定め、労働者の兼業を制限する企業も依然として多い。契約上の兼業・副業規制をめぐっては、労働者の私生活の自由や職業活動の自由(憲法22条1項)と使用者の利益との調整が図られている。 この点、兼業・副業をめぐる法的課題は、労働法及び社会保障法の領域で幅広く存在している。兼業の法律問題は諸外国でもみられ、特に、ドイツでは、兼業に関する法律問題が盛んに議論されている。そこで、比較対象であるドイツの兼職法制を分析し、わが国における兼業法制のあり方につき、どのような法の解釈あるいは法制度を採用すべきか検討を行ってきた。こうした議論を踏まえた上で、本研究では、雇用型の兼業・副業の議論を中心に、契約上の兼業規制のあり方、守秘義務をめぐる問題、労働時間の通算制をめぐる法的課題について、労働者の職業選択の自由(憲法22条1項)と使用者の利益との関係、労働者のキャリア形成の利益、健康確保といった観点から検討・分析を行い、研究成果として公表した。特に、兼業・副業を通して、キャリア形成に向けて様々な職種を経験していく就労の機会を保障するという観点から、労働者が自律的に選択する働き方を尊重する法規制のあり方について、検討を行った。
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