平成28年度の調査では、コロラド州デンバー学区をフィールドに、(1)制度制定をめぐる団体交渉、(2)学校現場における評価制度、(3)教育委員会・公立学校区の構造と機能の解明を重視した。現地ヒアリング調査は、公立学校区の人的資源部の担当者、教員組合の委員長、学校現場の教員に対して、平成29年2月22日~3月4日にそれぞれ実施した。なお、団体交渉にも参加した。 (1)評価・報酬制度は教育委員会・公立学校区と教員組合との団体交渉を経た合意に基づいて制定される。しかし、2015年6月3日、「最優先校報酬」という新たな評価に基づく報酬は、教員組合の合意なしに導入された。それは「最優先校報酬」の制定手続が明確に規定されていなかったからである。しかし、後に両者は制定手続を覚書という形で合意し、「最優先校報酬」の安定的運用に寄与させた。 (2)学力テストに基づく個人別評価である「児童・生徒の学習目標」報酬や同僚教員の評価に基づく「専門性向上単元」報酬の運用実態を主として探った。前者は学区内のほぼ全教員がその報酬を獲得しており、個人間の報酬差の発生が抑制されている。後者はそのプロセスを終えさえすれば獲得できる慣行であった。しかし、指導困難校のような多忙な学校に所属する教員は「専門性向上単元」のプロセスを継続する余裕がなく、途中で断念する傾向にあり、改善すべき課題とされている。 (3)団体交渉において教員組合に対応する教育委員会および公立学校区の組織構造と機能とを探った。とりわけ、中心的な役割を果たすのが公立学校区の人的資源部の交渉担当者である。その担当者たちは、教育委員会と意思疎通を図りつつも、教員組合との団体交渉を通じて制度の修正を適宜行っており、デンバー学区における報酬制度の安定的運用を支えている。 以上を通じて,デンバー学区における評価・報酬制度に関する整合的理解を得ることができた。
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