本研究では、研究対象を「1945年前後の東アジアにおける苛酷な紛争と大規模暴力を経験した島嶼地域」に設定し、「太平洋戦争」や大量殺戮といった諸紛争に巻き込まれるなかで、民間人に強いられた夥しい人命損失と人権蹂躙、共同体破壊の歴史を辿ることで、今日の東アジアの根幹を規定する問題を解明する可能性を模索してきた。とくに、1948年大韓民国誕生期に起きた「済州島4・3事件」の調査を中心に据え、そこで得た知見を踏まえて議論を拡張するための試みとして、第2次大戦における「沖縄戦」と解放後の台湾における「2・28事件」との比較研究を実施し、その成果を社会に発信してきた。具体的には、1.国民国家レベルでの「移行期」にみられる「死者の犠牲者化」のプロセスを検証し、2.紛争体験者及び遺族個々人(体験世代)の思いと実践についての人類学的な調査に基づいたミクロな分析を行い、「犠牲者」像を問い直した。さらに、3.「移行期」のメカニズムとローカルな知/実践との摩擦や交渉、折衷などのようなせめぎあいの過程を複合的に検討した。
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