本研究は、哺乳類の組織に、選択的に必須微量元素であるセレンを分配するタンパク質である、セレンタンパク質Pの生理的な機能を解析することを目的としている。セレンの代謝異常が2型糖尿病を悪化させることが近年報告されてきている。肝臓で合成され、精巣、腎臓、脳、筋肉へセレンを輸送するセレンタンパク質Pが糖尿病を悪化させるメカニズムを分子レベルで解析する。セレンを含有するアミノ酸のセレンタンパク質Pへの取り込みは厳密に制御されているため、一般的なタンパク質の過剰発現を利用した方法では大量に生成することが困難である。そこで今年度は、セレンタンパク質Pを発現させるベクターの部位特異的変異の導入と組換えを行い、生成するタンパク質の構造の最適化と発現量の向上に成功した。さらにこれらのタンパク質をマウスの培養細胞で発現させ、in vitro で機能を維持したまま細胞外に分泌されることを確認した。また研究の目的とする遺伝子の発現を抑制するためにRNA干渉法を利用した。この実験のためにレンチウイルスを作製、細胞に感染させ、9割の遺伝子発現を抑制することに成功した。セレンタンパク質Pが細胞に取り込まれる場合の指標を簡便に解析することを目的とし、培養細胞中の複数のセレンタンパク質のうち、セレンの濃度に依存する遺伝子をリアルタイムPCRで解析した。その結果、特定の遺伝子群の発現量がセレンの濃度に依存することを明らかにし、放射性同位体を使用することなく、セレンタンパク質Pの取り込み効率を測定することが可能になった。
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