研究課題/領域番号 |
15H06744
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
横山 俊一郎 関西大学, 東西学術研究所, 非常勤研究員 (60759827)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 日本漢学 / 泊園書院 / 藤澤南岳 / 企業勃興 / 大阪商人 / 地方地主 |
研究実績の概要 |
当該年度の研究では、泊園書院の門人名簿『登門録』に記載された人物の調査を通して近代に活躍した泊園書院出身実業家の全体像を把握するとともに、彼らのうち山口県佐波郡および石川県金澤市の地主で同じく銀行業を創立・経営した尾中郁太と本多政以の思想および実践を考察した。 その結果、明治期の泊園書院には「企業勃興期新長者」の大阪商人や地方地主の本人もしくはその子弟が多数在籍しており、彼らの多くが院主藤澤南岳の創立した儒教振興団体、大成教会に参加していたことが明らかとなった。また、南岳が大成教会の会員に配布したとされる『弘道新説』をみると、「愛国」「国体」「国益」「自欺」「廉恥」などの言説で構築された家業道徳および市場道徳が見られ、尾中郁太が清国視察中に記した経済社会観や本多政以の修養団体が使用した教材にそれらの言説の存在を認めることができた。 明治期の泊園書院出身者は、上記の尾中や本多に限らず、大阪商人では尼崎紡績を創立・経営した福本元之助と木原忠兵衛、地方地主では吉備紡績を創立・経営した中野寿吉など、一口に実業家といっても近代企業を創立・経営する、いわゆる「企業家」が多く在籍していた。また、伊藤忠商事の創業者である初代伊藤忠兵衛が出身者の一人であることは、泊園書院出身「企業家」の先駆的性格が流通業にまで拡がるものであったことを示している。 なお、企業勃興そのものは都市と地方の双方で生起した広範な現象とされ、それを先導した「企業家」の行動原理については、これまで経営史分野では経営ナショナリズム論や名望家論が提起されている。しかし、いずれも都市商人とりわけ大阪商人は考察対象とされておらず、都市と地方の双方を統合する見解もいまだ不在の状況にある。 本研究は既存の学問分野の垣根を越えることによってこれらの問題を克服し、近世以来の日本儒教の社会的機能との関わりから上記の命題を解明することが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで泊園書院出身実業家の全体像と彼らの院主藤澤南岳との関係性については曖昧な点が多かったが、当該年度の研究を進めていくうちに、泊園書院出身実業家は経営史分野で「企業勃興期新長者」と呼称される、都市と地方の双方に存在する一群の人々と重複することが明らかとなり、また泊園書院出身実業家の多くが南岳の創立した儒教振興団体、大成教会の会員として『弘道新説』を受け取っていたことも明らかとなった。その結果、考察対象にすべき時代、人物、テキストがより明確化されるにいたった。
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今後の研究の推進方策 |
日本の工業化への一つの画期とされる明治期の企業勃興現象に注目しつつ、考察対象となる人物を再設定したい。そこで大和国の山林地主で鉄道敷設にも意欲的であった土倉庄三郎と伯耆国のたたら製鉄の経営者で蒸気機関を導入した近藤喜八郎を追加する。彼らは同じく地方の「企業勃興期新長者」であったが、彼らの子弟も同じく泊園書院出身者であることが明らかとなった。土倉庄三郎の長男土倉鶴松については大成教会の会員でもあった。それぞれ『土倉家文書』と『近藤家文書』としてまとまった資料が残されており、本研究が前進することに寄与するものと思われる。
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