本年度主に以下の2つの分析を行っていた。 まずは、昨年度に収集したデータに加え、複数のオンライン市場から、各店舗の販売実績を時系列に収集した。そのデータを用いて、Becker (1991)の消費の外部性理論をオンライン環境で実証した。消費者は他の消費者の行動結果に影響を受けて意思決定を行うといった外部性理論がある。その理論を基に、商品販売量の時系列影響(自己影響)、および販売量の時系列変化が当該商品の次期価格に与える影響について分析を進めた。具体的には、消費の外部性を考慮した動的経済モデルを構築し、Crawling技術を用いて複数のショッピングサイトから販売成果を収集し、消費者の需要の動的変化を一般化モーメント法で推定した。推定結果から、オンライン市場では、季節性等の要因を制御した後、ある商品の当期販売量は当該商品の次期販売量に強い正の影響を与えることが実証された。つまり、情報の非対称性がある市場において、消費者の購買意思決定は、他の消費者の過去の購買行動に影響を受けやすいことを証明し、店舗の競争戦略の効率化となる知見を得ることが期待できる。 次に、昨年度の研究の引き続き、顧客レビューと販売成果との関係を解明するために、オンライン市場から顧客のレビュー情報を収集し、更にそれを関連する店舗の販売成果に統合することによって、オンライン市場における顧客レビューの影響及び重要性について調べた。他の消費者の購買状況がネット上で公開されることによって、レビューが販売結果に与える影響が弱くなることが実際のデータで確認できた。また、情報非対称性の市場において、ポジティブな情報よりも、ネガティブな情報が、消費者の購買意思決定に与える影響が強いとの結論も実証された。さらに、ネガティブなレビューは、商品性質や評価ポイントにより、店舗の販売業績にポジティブな影響も与える可能性もあることも確かめた。
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