近年、危険ドラッグとして注目された合成カンナビノイド化合物は、様々な身体症状を引き起こして多くの交通事故をもたらした。こうした事件・事故の捜査において、合成カンナビノイドの血中濃度から摂取薬物の中毒作用を推定することは極めて重要である。我々は、ラット(8週齢,雄性)を用いて、合成カンナビノイド化合物の血中濃度推移を調査したところ、エステル系化合物である5-fluoro-QUPIC (5-fluoro-PB-22)で生体半減期が短かったことから、naphthalenyloxycarbonyl系の合成カンナビノイドは、薬物代謝反応を受けやすく尿中排泄率が高まることが示唆された。現在、血中濃度測定の他に尿中濃度測定を進めており、血中から消失した薬物がどれだけ尿中に移行しているか解析しているところである。また、合成カンナビノイドは特に脂溶性が高いことから、脂肪リッチな組織に高濃度に分布するものと推定されている。そこで、質量顕微鏡(マスイメージング)を用いた組織分布の可視化についても研究を進めている。脂肪組織の測定は容易ではないが、組織標本の作成方法を工夫して、さらなる検討を行う予定である。その他、行動薬理学的なアプローチとして、自動車運転技能に直結する毒性作用であるカタレプシー惹起作用についても検討を行い、現在データを蓄積しているところである。カタレプシー惹起作用の実験についてはまだ予備的な段階であるが、これらのデータがまとまり次第、日本法中毒学会、日本薬学会等の学会にて成果を公表する予定である。
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