本研究は、女性ムスリムの信仰と社会参加の関係づけの様式を明らかにすることを目的とし、イギリス、マレーシア、日本をフィールドとした国際比較をおこなう。 本年度は、マレーシアと日本の調査を予定していたが、調査許可の申請状況を鑑みマレーシアの調査は延期し、日本の調査に専念した。関西を中心とした22名の日本人ムスリム女性を対象にライフヒストリーに基づくインタビューをおこなった。詳細な分析は28年度以降となるが、暫定的な知見として下記のものが挙げられる。 ①改宗は必ずしも、結婚を契機としていない。②改宗には、家庭環境、海外への関心、インターネットを中心とする情報化、改宗前のムスリムとの交流などの複数の要因が存在している。③信仰をアッラーと自身との関係としてとらえる「個人主義的」観点を強調することで、イスラームが確立されていない日本のムスリム・コミュニティで自律性を保っている。④男性役割/女性役割の存在を認める一方で、実際には、経済的な自立や家計の主たる担い手となっている。⑤宗教と文化の区別を強調し、イスラームの否定的な表象に対して抵抗している。⑥結婚を契機として改宗した者は、イスラームへのコミットメントが弱い傾向にあるが、知識の習得やムスリムとの交流過程でそれは徐々に向上していく。⑦スカーフの着用の程度は個々別々であるが、それぞれが自身の決定を支持するイスラームに基づく理路を有している。⑧イスラームへの改宗要因として、精神的なものよりもその教えのもつ論理性がより重視されている。 以上の知見は、イギリスにおけるこれまでの研究と連続性があり、情報化やグローバル化という、ムスリムを取り巻く共通の背景や環境が重要な意味をもっていることを示すものとなっている。また、改宗をめぐる知見は、結婚と改宗との関連を重視している旧来の日本のムスリム女性研究には見られなかった点が含まれている。
|