本年度は、昨年度からの積み残しとなっていた典籍に関する調査を行い、完了した。 また、花園天皇「誡太子書」に見える治世観の研究を実施した。先行研究を網羅した上で、まず同書に関する詳細な注釈を作成し、論文として公表した。さらに、注釈作業によって明らかになった花園院の治世観について研究発表を行った。花園院は、天皇としての心構えを「誡太子書」にまとめ、光厳院に与えた。同書は北朝の治世観を考える上で重要な文献だが、これまでその文学的研究や注釈はほとんどなかった。本研究では、応募者の漢文学に関する研究実績を生かし、「誡太子書」の全文に注釈を施し、典拠を指摘した上で、文中に見られる治世観を分析し、あわせて同書にあらわれる花園院の自意識を探り、文学作品としての位置づけを検討した。 さらに、前年度一部を前倒しして行った『光厳院御集』等に見える治世観の研究を継続し、同集において漢籍典拠を持つ和歌を一覧化した。家集『光厳院御集』及び光厳の詠んだ全歌について、経書・漢籍を典拠とする作品を調査し、そこにあらわれた治世観を分析した。また、その思想的背景について、政治史・思想史の立場から検討を加えた。 以上のほか、『菟玖波集』に見える治世観の研究を行った。ただし、同集に収録される、花園院、光厳院の作品は数が限られており、本研究の目的に合致するような、治世観とかかわる句は多少見られるものの、そこからしかるべき論を導くことは、現段階では不可能であった。 以上を総合し、花園院、光厳院二代の治世観を検討した。
|