研究課題/領域番号 |
15H06789
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研究機関 | 山口東京理科大学 |
研究代表者 |
石川 敏弘 山口東京理科大学, 工学部, 教授 (60756104)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 構造・機能材料 |
研究実績の概要 |
本研究で取り扱った結晶質炭化ケイ素繊維(宇部興産㈱の商品名:チラノSA繊維)は、2000℃までの優れた耐熱性を有しており、現在、航空機エンジン部材としてのセラミックス複合材料用強化繊維として積極的な適用化研究が進められている。目的は、航空機エンジンの燃焼室に用いられている金属材料を、上記結晶質炭化ケイ素繊維で強化されたセラミックス複合材料に置き換えることにより、軽量で無冷却のシステムを実現させることである。そして、更にその適用部位の拡大を目指して、繊維強度の増大と特性の安定化が望まれている。チラノSA繊維は、有機ケイ素高分子を前駆体とし、多くの熱処理工程を経て合成される。その製造工程は、高温の不活性ガス中での無機化(焼成)工程と、それに続く更なる熱分解と緻密化(焼結)工程を経て合成されており、ポリアクリロニトリルを原料として合成されるPAN系炭素繊維の製造工程と多くの類似点を有している。両者の製造工程では、ガス状の副生物(本研究では主としてCOガス)の生成を伴うことから、空孔が繊維内部に残存し易くなる。このような残存空孔も、原料由来の余剰炭素や特殊な熱処理環境下で生成する異常粒成長した結晶粒と同じように、繊維中の欠陥となり得るものである。本年度は、まず、第一破断面を正確に捕獲する手法を確立し、その手法を用いたモノフィラメント引張試験の際に捕獲した第一破断面を、FE-SEMを用いて詳細に調べることにより、破壊の起点となった繊維中の欠陥サイズと繊維強度の関係を明確にさせ、どの程度まで欠陥サイズを小さくすれば強度の向上が望めるかを明らかにさせ、更に繊維表面の平滑性等に影響を与える因子の抽出も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で用いた結晶質炭化ケイ素繊維は、弾性率が400GPaと極めて大きいことから、引張試験の破断時の衝撃波の影響で、通常は細かく砕けてしまうことから、破壊の起点となった欠陥を含む第一破断面を捕獲することは極めて困難であった。しかし、本研究の成果の一つである「引張試験のモノフィラメントを、流動パラフィンを含浸させた薬包紙で挟み込む」ことで、破断時の衝撃波が効果的に吸収され、最初の破断のみで破壊を終了させることに成功し、上記第一破断面を効果的に捕獲出来るようになった。このシンプルで画期的な手法を用いることにより、強度の異なる全ての繊維の第一破断面の捕獲が可能となり、破壊の起点となった欠陥の種類ならびにその大きさと強度の関係も正確に取得出来るようになり、目標強度を得る為の欠陥サイズを特定することが出来た。更に、繊維強度に最も大きな影響を与える表面欠陥に与える主要因子の抽出も行い、次年度の目標を明確に定めることが出来たから。
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今後の研究の推進方策 |
意図的に一つ一つの条件を動かした実験を細かく行い、焼結後の繊維内微細構造に与える影響を詳細に調べてゆく。主に変動させる因子は、①分解前の中間繊維中酸素含有量、②昇温スケジュール(処理温度、昇温速度ならびに保持時間等々)、③雰囲気(CO濃度や圧力条件等々)となるが、これ以外にも試料の炉内設置方法や試料容器の影響(材質や形状等)も詳細に調べてゆく。尚、①の中間繊維中の酸素含有量については、通常の製造過程で導入される固定酸素量に加えて、事後酸化処理を行うことにより過剰酸素を導入する等、積極的な要因変動も含む。同検討では、熱処理実験前の繊維中の酸素存在状態の把握(FE-SEM、EDS、LECO組成分析等々)、ならびに処理後の微細構造の変化を主に顕微鏡的手法を用いて詳細に調べ、状況に応じて得られた繊維の力学的特性も取得する。これらの検討結果を詳細に解析することにより、微細構造変化に影響を与えていると思われる因子(例えば、処理前の繊維中並びに繊維表面の酸素の存在状態の違いや、熱分解温度領域における昇温スケジュール、熱処理温度等)をより一層細かく変動させて、得られた繊維の微細構造(繊維表面・断面における結晶粒や粒界構造の違い等)を詳細に観察することにより、最適条件の絞り込みを行ってゆく。これらの検討結果から、将来の高強度化に向けた指針を打ち出してゆく。なお、宇部興産㈱との親密な連携、ならびに国際的なディスカッションの場を有効に活用することにより、より迅速に、より一層効果的な研究が出来るよう尽力する。
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