本研究では、固相焼結を誘発する助剤成分(Al)を含んだ非晶質Si-Al-C-O繊維の熱処理過程に焦点を当てた。その熱処理過程では、上記原料繊維を、1500℃以上の高温のアルゴン中で熱分解させ、それにより得られた純粋組成のSiC結晶に近い多孔質状態の分解繊維を、更に高温で固相焼結させることにより緻密な構造が得られる。この熱処理過程での変化について、処理温度領域を第I温度領域~第IV温度領域に分けて解析を行った。1100℃から始まる第Ⅰ温度域では、繊維中の酸化物相から発生するSiOガスと繊維内余剰炭素の反応(SiO(g)+2C→SiC+CO(g))が始まり、1400℃辺りでSiC結晶の核生成(1~2 nm程度)が始まることを見出した。また、1450℃を超える第Ⅱ温度域では、繊維中の余剰炭素の表面に向かった拡散が激しく起こり始め、上記SiOガスとの反応によるSiC結晶の気相成長が繊維表面でも進行することから、厳密な温度と雰囲気の管理を行わないと繊維表面でのSiC結晶の異常粒成長を引き起こすことも明らかにした。更に、1500℃を超える第Ⅲ温度域では、SiC結晶集合体を得る為の最も重要な分解反応(SiO2+3C→SiC+CO(g))が熱力学的に繊維内部で優勢に進行し始めることから、前述のようなSiOガスが関与する繊維表面での異常粒成長は起こり難くなる事も明らかにした。また、第Ⅰ温度域において生成するSiC結晶核が小さい程、1700℃以上の第Ⅳ温度域において進行する緻密化が効果的に進行し、結果として高強度化に寄与できる事も明らかにした。以上の検討結果からまず、SiOガスが関与する反応及び繊維内部からのSiOガスの脱離が、多結晶質SiC繊維の表面形成並びに欠陥生成に大きく影響を及ぼしていることを明らかにした。これ等の結果を基に残存炭素が少ない緻密な多結晶質SiC繊維の合成に成功した。
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