本研究は、国公立大学法人化や学長権限の強化などの大学改革が急速に進められ、日本憲法学の「定説」であった「教授会自治」論が揺らぎ始めている今日の状況下において、当該制度改革の濁流に歯止めをかけ、学問の「素人支配」を防ぎうる、新たな憲法理論の探求を行うものである。 本年度は、前年度の研究で得られた知見・問題意識をもとに、①コンセイユ・デタ判例の分析、②「教授の独立」と「司法の独立」の対比に関する研究を進めた。 ①については、コンセイユ・デタの判例を広く検討することにより、「教授の独立」原則が、教員人事における学術的評価が当該研究領域の専門家によってなされることを厳格に要求していることを、改めて確認することができた。教育活動に関しては学生の参加をある程度認めるし、労働条件に関しては公益も前に譲歩することもあるが、教員人事に関しては基本的にそのような例外は認められない。もっとも、教員人事以外の領域において、「教授の独立」原則がどこまで機能するのかという点については、明確にすることができなかった。この点は今後の課題としたい。 ②については、日本においても「大学の自治」を「司法の独立」とパラレルに論じる学説(美濃部達吉、田中耕太郎など)が存在していたため、日仏比較の準備作業として、それらの論者の著書・論文を読み進めるとともに、その背景をなす日本の大学史について研究した。その結果、戦前の日本における「教授会自治」は、学問の自由を確保するための手段というよりも、いわば「統治機構論」としての性格が濃厚であったこと、そのため同じく統治機構論である「司法の独立」とパラレルに論じることは自然であったことなどを明らかにすることができた。今後は、フランスの議論状況について研究を進め、日仏比較を行いたい。
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