本年度の研究実績は、大きく2つある。1つは、前年度行った話し合い活動の分析をより詳細に行い、集団内の児童の理解が改善される効果的な話し合い活動を構成する要因を明らかにしたことである。前年度に加えて本年度では、話し合い記録の逐語記録から、改善傾向がみられたグループとそうでなかったグループを調査し、ディスコース分析を用いることで、話し合いを効果的にする要素を抽出した。この際に、継続的比較法の手続きを参考に理論の抽出を行った。結果として、話し合い活動を成功裡に導く要素として、「聞き手の能動性」、「方略の使用」、「役割行動」の概念が生成された。次に、これらの要素を取り入れることを企図した介入を行うことで、意図的に効果的な話し合い活動を生起させ、見解の妥当性を得ることをねらいとした。それが本年度のもう1つの研究実績である。 2回目の介入実践は、小学校5年生(65名)を対象に行われた。介入は、先に挙げた3つの概念をターゲットとして行われた。まず、「聞き手の能動性」を保証する方策として、集団のリーダーがわからない人がいないことを確認しながら話し合いを進行させ、質問しやすい雰囲気づくりに努めさせた。次に、「方略の使用」については、話し合いのガイドラインを設定することによって話し合いの行い方を操作し、活動の円滑化を図った。「役割行動」については、各グループにリーダーを置くことによって役割行動を発生させることを意図した。結果として、前年度より多くの集団が話し合い活動を構造化し、児童たちに顕著な理解度の向上が見られた。 本研究では限定的ではあるが、体育授業における話し合い活動を効果的に行うために考慮すべき要素が明らかになった。これは、今後発展していくと思われる、言語活動を用いた体育授業を成功裡に展開していくことを考える上で有用な知見になると考えられる。
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