水納島方言は琉球語の中でも極めて危機的な状況にある言語であるが、その調査・研究はごくわずかであった。本研究は水納島方言の動詞と形容詞の包括的な文法記述とテキストの作成を行うものである。 本年度(H28年度)は計4回の臨地調査を実施した。昨年度に引き続き、特に形容詞の活用に関する項目を中心に言語調査を行った。 7月にはその調査成果の中間報告として研究会発表を行った(2016.7.2 於琉球大学)。発表内容の概要は以下の通りである。 水納島方言には、母音を伴わない側面音/L/の音が現れない。よって、その形容詞の基本形は、多良間島方言の形容詞「(タカ)シャーリ゜/(taka)sja:L/」とは異なる形が用いられることが予測される。そして実際に「(タカ)シャーイ/(taka)sja:i/」というL→iの変化がみとめられた。ただ、用法については両方言に違いはないと予測していたのだが、焦点化助辞「~ドゥ/-du/」の位置による文末形式の使い分けについては、多良間島方言と水納島方言とで異なる傾向が見られた。すなわち、多良間島方言では焦点化助辞の位置が形式の使い分けにあまり影響しないのに対して、水納島方言では大きく影響する、という指摘を行った。出席者の方々より有益なコメントを数多くいただき、さらなる考察、新たなデータの分析に生かすことができた。 年度後半は調査データの整理と分析、考察といった本研究課題のまとめ作業を中心に行った。残念ながら年度内の投稿・刊行は叶わなかったが、現在研究成果の論文化をすすめており、うち1つは2017年9月刊行の研究紀要(5月末締め切り)に投稿する。
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