平成28年度(平成29年度繰越分を含む)の主な研究実績は次の3つである。1つ目は、2016年度越中史壇会研究発表大会「享保・延享期の加越能地域の朝鮮人御用」(富山市民プラザ、2016年8月)や加賀藩研究ネットワーク第27回例会「近世中後期の加越能地域の朝鮮人御用」(金沢大学サテライトプラザ、2017年7月)など、加越能地域の朝鮮人御用に関する5本にわたる口頭発表(招聘報告を含む)である。平成27年度の段階で、正徳・享保期の加賀藩領国における実態を分析していたが、これを延享期にまで広げ、村々への駅馬負担の均一化を図るために、意図的に負担範囲を17カ所から43カ所へ拡大させた過程が解明された。 2つ目は、朝鮮人御用の遂行地である美濃路起宿に関して依頼された、交通史学会シンポジウム・脇往還美濃路「朝鮮通信使乗馬役と美濃路起宿-諸大名小屋掛の絵図を中心に-」などの2本の口頭発表(招聘報告)である。これらの準備過程で、接待役・乗馬役等の役負担従事者や対馬藩関係者をはじめとして、通信使随行員を超える多くの人員が宿場に集まったこと、半年以上前から綿密に計画していた実態が明らかになった。 3つ目は、美濃路起宿に関する口頭発表の準備過程で見つかった新史料の調査である。現地で通信使に提供する諸大名家の乗馬の馬小屋絵図について、従来のものに加え、2枚新しく発見され、それが延享期の福井藩、宝暦期の加賀藩のものと判明した。またこれまで本陣問屋『加藤家文書』、脇本陣『林家文書』を主に研究が進められてきたが、問屋『永田家文書』の中にも通信使関連の史料が見つかり、繰越後の平成29年を中心に、閲覧・写真撮影を重点的に行った。これらの研究成果の一部は、日下英之監修『街道今昔美濃路をゆく』(風媒社、2018年)の中でも取り上げ、また平成30年度に依頼された口頭発表においても紹介する予定である。
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