本研究の目的は、海水温が恒温・変温動物間の捕食者―被食者関係に与える影響を評価することである。具体的には動物装着型のビデオカメラを雌キタゾウアザラシの頭に装着することで、これまで不可能だった水中での被食者(e.g. 変温動物である魚類)の行動データをビデオデータから取得、最終的に海水温が捕食者―被食者関係に及ぼす影響を明らかにするというものである。 研究1年目にあたる本年はアザラシ計8個体の頭に装着したビデオカメラからビデオデータ(合計約20時間に及ぶ)を取得した。その結果、ハダカイワシ等の小型魚類、頭足類、クラゲ類がキタゾウアザラシに捕食されるまさにその瞬間を撮影することに成功した。また、キタゾウアザラシは深い深度(800m以深)で大型の魚類(イレズミコンニャクアジ)を捕食していることを明らかにした。キタゾウアザラシがイレズミコンニャクアジを捕食していることを明らかにしたのは本研究が初めてである。さらに、イレズミコンニャクアジは捕食される瞬間、際立った逃避行動を見せなかった。今後、水温とビデオデータを併せ、イレズミコンニャクアジを含む変温動物(魚類、頭足類、クラゲ類)の逃避行動と水温との関係を明らかにする予定である。そして、最終的に海水温が捕食者―被食者関係に及ぼす影響を明らかにする予定である。さらに本年では、アザラシの三次元遊泳軌跡と採餌頻度を同時に解析し、アザラシは三次元空間を階層的に使用していること、さらにこの階層構造は彼らの主な餌種(ハダカイワシ)の分布様式を暗示していること、を明らかにした。本研究結果をまとめた論文は国際誌(Functional Ecology)に投稿、現在査読中である。及び、中深層性餌生物(ハダカイワシ)の日周鉛直移動がアザラシの遊泳速度の昼夜の変化の要因となっていることを示唆した研究結果を二つの学会で発表した。
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