本研究の目的は古典籍資料の中でも文章中に訓点が記されている訓点資料を、訓点情報を損なうことなくコンピュータに電子テキストとして取り込むための電子的な記述手法を提案し、電子化プロセスを確立することである。本研究では訓点の中でも、平安・鎌倉時代の漢文文献に多く存在するヲコト点を研究対象とし、読者が漢文本文と訓点情報を組み合わせて読むことによって得られる書き下し文ではなく、訓点情報そのものをテキスト化するための電子的な記述手法を提案している。今年度は提案する電子化手法の有効性を確認するため、電子化した主要ヲコト点26種のデータを用いてコンピュータによるヲコト点の基礎計量を行った。基礎計量はヲコト点図の構成要素である「位置」「形状」「読み」の3要素ごとに行った。 その主な結果、主要ヲコト点26種中にはヲコト点が2943個存在すること、主要ヲコト点26種の中でヲコト点の読みは「ス」「ナル」「ナリ」「タリ」が最も多く登場すること、ヲコト点は漢字の四隅とその間及び中心に多く付与されること、最も多く登場する形状は星点「・」であることなど、3要素に基づく解析結果を定量的に示した。実際に26種のヲコト点を電子化・計量することで、7×7マスの提案座標系に全てのヲコト点が配置可能であることを確認し、本提案方式が有効であることを示した。同時に、訓点研究の専門家と検討を行い、ヲコト点の発展史の研究における基点がどこに存在するかを明らかにするなどの訓点研究の課題解決に利用可能な計量結果であることがわかった。 成果の報告は、実際にヲコト点図を電子化するときに用いた電子化支援ツールをインターネット上で公開した。今年度の成果の一部は、人文科学とコンピュータシンポジウム「じんもんこん2016」において研究発表を行った。さらに、本研究のまとめとして情報処理学会論文誌「人文科学とコンピュータ」特集号に投稿準備中である。
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