研究課題
髄鞘は絶縁体として働くだけでなく軸索と緊密な相互作用を行い神経機能を調節する。髄鞘はグリア細胞が軸索を何重にも取り囲んだ多重層構造であり、そこには多くの膜蛋白質が存在する。細胞表面に存在する殆ど全ての膜蛋白質が糖鎖修飾されていることから、髄鞘において糖鎖が重要な働きを担っていると考えられるが、糖鎖がどのような役割を果たすかは未だ理解が乏しい。今までにマウスなどの髄鞘の糖鎖解析を行い、硫酸化N結合型糖鎖が末梢神経系髄鞘には豊富に存在することを私は見出した。そして、その硫酸化修飾は硫酸転移酵素GlcNAc6ST-1によるものであると突き止めた。本研究は、末梢神経系髄鞘においてGlcNAc6ST-1により作られる硫酸化糖鎖がどのような役割を果たすのかを解き明かすことを目的とした。GlcNAc6ST-1ノックアウト(KO)マウスの末梢神経系髄鞘の糖鎖を解析した結果、N結合型糖鎖の硫酸化は見られなかった。このKOマウスを用いて有髄神経におけるGlcNAc6ST-1の役割を調べた。髄鞘が正しく形成されると、髄鞘間の隙間であるランビエ絞輪や隣接するパラノードなどの機能ドメインが形成される。パラノードマーカーであるCaspr染色を行ったところ、GlcNAc6ST-1 KOマウスではCaspr染色およびランビエ絞輪が広がっており、異常な髄鞘が観察された。軸索の断面図をトルイジンブルー染色で調べると、脱髄評価に使われる指標G-ratio(神経全体の直径に対する軸索の直径の割合)がGlcNAc6ST-1 KOマウスでは低下していた。さらに、GlcNAc6ST-1 KOマウスでは軸索変性が観察された。故に、末梢神経系においてGlcNAc6ST-1は糖蛋白質のN結合型糖鎖の硫酸化を介して髄鞘形成を制御することが示唆された。故に、平成27年度の研究計画はほぼ達成できたと考えている。
2: おおむね順調に進展している
硫酸転移酵素GlcNAc6ST-1 により作られる硫酸化糖鎖が末梢神経系髄鞘の形成を制御していることを明らかにしつつあり、研究内容を論文として投稿するまでに至ったため。
GlcNAc6ST-1ノックアウト(KO)マウスを用いて、硫酸転移酵素GlcNAc6ST-1 により作られる硫酸化糖鎖の末梢神経系髄鞘における役割を明らかにする。電子顕微鏡を用いてGlcNAc6ST-1 KOマウスの異常な髄鞘の詳細な構造を観察する。野生型マウスと比較してGlcNAc6ST-1 KOマウスでは末梢神経系で脱髄しやすいかどうか、また、脱髄させた際に回復が遅いかどうかを検討する。GlcNAc6ST-1 KOマウスの行動解析を行う。運動機能に着目し、足跡を記録する歩行解析や回転棒にマウスを乗せるロータロッドテストなどを行う。
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