研究課題/領域番号 |
15H06843
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研究機関 | 公益財団法人深田地質研究所 |
研究代表者 |
石塚 師也 公益財団法人深田地質研究所, その他部局等, 研究員 (90756470)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 地表変動観測 / 地盤沈下 / 地震後地表変動 / 地熱開発 / PSInSAR解析 |
研究実績の概要 |
今年度の研究を通じて、わが国のSAR衛星であるALOS/PALSARのデータを用いたPSInSAR解析により推定可能な地表変動の精度を明らかにした。また、大規模データに手法を適用し、関東平野一帯の近年の地表変動現象を網羅的に明らかにした。さらに、従来の手法の課題であった植生等の地表被覆の影響に頑強な解析手法を開発した。具体的な成果の概要は以下に述べる。 ・これまでに地盤沈下の発生が明らかになっている九十九里地域を対象として、ALOS/PALSARデータおよびシミュレーションデータを用いたPSInSAR解析の精度評価を行った。その結果、年間地表変動量は約2 mm/年の誤差、時系列地表変動量は約1.1 cmのRMSEの精度で推定可能であることが分かった。当研究により、理論的な精度が明らかになったと考えている。 ・2006年から2010年の間において、関東平野北部で発生した複数の地盤沈下域を推定した。本研究により、当該地域の詳細な地盤沈下の空間分布が初めて明らかとなった。 ・ドイツの衛星TerraSAR-Xデータを用いて、2011年4月から2012年12月にわたる東北地方太平洋沖地震後の関東平野南部の地表変動量を推定した。その結果、従来のメカニズムでは解釈できない局所的な隆起が発生していることが分かった。地震波データ解析に関する先行研究結果を鑑みると、本震によって堆積層の厚い場所で浸透率が変化したことが推定されている。また、堆積層が厚い地域では地下水位は上昇しており、浸透率変化に伴う地下水位上昇によって、局所的に地盤隆起が発生した可能性が考えられる。 ・従来の手法では解析を適用することが難しい植生の繁茂する地域に手法を適用可能にするため、データペアをピクセルごとに決定する手法を開発した。開発した手法はニュージーランドの地熱開発地域に適用し、有効性の検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究テーマでは、PSInSAR解析と呼ばれる衛星搭載SARデータを用いた地表変動推定手法の改良を行い、より多くの観測条件において、詳細かつ網羅的に地表変動を把握可能にすることを目的としている。加えて、我が国の地表変動地域に手法を適用し、従来は明らかにされていない変動メカニズムについて考察を行うことを目的としている。 今年度は、(i)PSInSAR解析の精度評価、(ii)東北地方太平洋沖地震前後の関東平野全域の地表変動の推定、(iii)従来の解析手法の課題であった植生の繁茂する地域において地表変動を精度よく推定する解析手法の開発を行った。 (i)解析手法の精度評価は、PSInSAR解析の現時点での地表変動検知能力を把握するベンチマークとして重要な研究と位置付けている。特に、我が国のSAR衛星であるALOSのデータを用いたPSInSAR解析の理論的な精度を明らかにできたことは重要な成果であると考えている。 (ii)通常は20から30シーンのデータ数を用いてPSInSAR解析を適用することが一般的であるが、関東平野全域を対象とした解析では、広域の範囲を対象としたため、合計約140シーンのSARデータを用いてPSInSAR解析を行い、東北地方太平洋沖地震前後の関東平野の地表変動量を明らかとした。このような多量のデータ解析は、世界の多くの大都市がある堆積平野の変動を網羅的に把握することに役立つと考えている。 (iii)従来は解析の難しかった植生の繁茂する地域において地表変動を推定できる手法の開発を行った。開発した手法はニュージーランドの地熱開発地域に適用し、地表変動の空間分布をより明瞭に特定することに成功した。 研究初年度において、上記の成果が得られおり、当該研究は順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を通じて、わが国のSAR衛星であるALOSのデータを用いることで、ミリメートル精度で地表変動量を推定できることを明らかにした。そして、この解析アルゴリズムを大規模データにも適用可能にすることで、関東平野一帯の地表変動現象を網羅的に明らかにできることを示したと考えている。 しかしながら、山岳地帯においては、植生等の地表被覆の影響や斜面傾斜方向に伴ってマイクロ波の反射が不安定になり、精度よく地表変動を推定することが難しい場合が少なからずある。今後は、植生等の地表面被覆により一層頑強な手法を開発し、山岳地帯においても安定して精度よく地表変動量を推定可能にすることを目指す。また、実データへの適用検証を行い、詳細な地表変動現象の解明を目指す。 山岳地帯の地表変動として、近年被害が多発している地すべりや斜面崩壊に伴う地表変動を捉えることを目指す。具体的な適用対象地域は日本有数の地すべり地である「白山甚之助谷」および斜面崩壊が注視されている「富士山山体」を検討している。白山甚之助谷での地すべり性の変動量はGPSや傾斜計などにより測定されており、複数の地すべりブロックが連動して動いていることが推定されているものの、変動量の面的な広がりは明らかになっていない。変動量の面的な広がりを明らかにすることで、複数の地すべりブロックの相互作用の有無を明らかにできる可能性があり、この可能性について検討する。また、富士山は、我が国において、斜面崩壊が注視されている山体の1つである。富士山山体の斜面崩壊としては、山体西側斜面に位置する大沢崩れが有名であるが、それ以外の斜面でも頻繁に斜面崩壊が起こっていることが報告されている。斜面崩壊は広範囲に渡り頻繁に発生しているため、斜面崩壊時期や量が明らかになっていない斜面も多く、本研究によって、近年の斜面崩壊地域や時期の解明を目指す。
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