研究課題/領域番号 |
15H06846
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研究機関 | 北海道博物館 |
研究代表者 |
甲地 利恵 北海道博物館, アイヌ民族文化研究センター, 研究員 (20761638)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | アイヌ音楽 / アイヌ文化 / アイヌ古式舞踊 / レパートリー / 音声・映像資料 / 伝承状況 / 音楽分析 / 民族音楽学 |
研究実績の概要 |
本研究では、アイヌ音楽の ①公刊された音声・映像資料の情報収集 ②音声資料の音楽分析 ③各地の伝承団体の伝承状況の調査を行い、アイヌ音楽の伝承曲目に関する時代差・地域差、及び現在の伝承状況を明らかにすることを目的としている。 平成27年度は主として①の情報収集と②の音楽分析に着手すると同時に、伝承曲目の録音録画による採録に向け③の予備調査を開始した。 ②について、本研究ではNHK札幌放送局によるアイヌ音楽調査をまとめた『アイヌ伝統音楽』(1965)及び『アイヌの音楽』(1967、LP盤)を、地域差や時代差を比較する際の基準ないし指標に設定したことから、音楽分析に際しても『アイヌの音楽』収録曲の分析を進めることにした。開始当初は音組織・リズム・歌唱形式・拍節構造・歌唱法など多角的に分析する予定だったが、1970年代以前の資料に顕著にみられる特徴的な歌い方(声の音色変化を優先して歌う、即興的変奏を繰返すなど)のため、予想以上に採譜等の作業に時間を要することがわかったため、ひとまず旋律全体を支配する1~数拍を単位としたサイクルの構造(拍節構造)にテーマを絞ることに変更した。 ③については、国の重要無形民俗文化財「アイヌ古式舞踊」の保持団体(17団体)のうち、これまで採録調査を実施したことのある旭川・鵡川・様似を除いた14団体を対象に、まずは各地での公開行事にむけた定例の練習日の見学を重ねながら、ゆっくり確実に相互の信頼関係を確立することに努めた。また、相手方の年間行事等の都合や高齢者を含む伝承者の状況等を勘案し、採録は平成28年度に繰延べすることが適当であると判断した(そのため、補助金の一部を繰越す申請を行った)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既存の資料の情報収集については、資料の書誌事項など大まかなところは押さえ、次年度に向けてさらなる情報収集を進めることとした。 個々の曲目の音楽的分析は、当初の見込みよりも多くの時間を要することが判明し、音楽分析の着眼点を主に拍節構造(旋律を支配する拍の単位のサイクル)に絞り込み、作業内容と日程の見直しを図った。 採録調査に関しては各地での情報収集が一時期進まず、予備調査とそれに続く採録に向けての計画を変更し、補助金の平成28年度への繰越を申請した(学振助第816号で承認通知)。その後、予備調査を行う中、白糠アイヌ文化保存会での採録が最も実施の可能性が高いことから、数回の打合せを行った結果、冬季の方が行事参加等が少なく都合がよいとのことであったため、補助金繰越申請時からさらに日程を延期し、最終的には平成29年3月に採録を実施した。 このように、音楽分析に関してはテーマの変更、採録に関しては日程の繰延べがあったものの、全体としては概ね順調に進展できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
既存の音声資料の情報収集を引き続き進めるとともに、映像資料や海外で発行された資料等の情報収集にも着手する。 音楽分析については、平成28年度末までに論文または研究ノートの形でまとめ公表することを目標に、既存の資料のうち『アイヌの音楽』(1967)を対象とした拍節構造の音楽分析を進める。 採録調査については、引き続き各地の伝承状況についての情報収集や、実際に練習現場を訪問するなどして現況の把握に努めるとともに伝承者との信頼関係の確立に努めていく。
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