前年度に引続き、アイヌ音楽の ①公刊された音声・映像資料の情報収集 ②音声資料の音楽分析 ③各地の伝承団体の伝承状況の調査を行った。 ① これまであまり知られていない海外のレコード盤数点の情報を新たに得た。国内でも各地の伝承団体等によるCDやDVDの自主制作が増えており、予想より多くの情報を得た。 ② 本研究ではNHK札幌放送局によるアイヌ音楽調査をまとめた『アイヌ伝統音楽』(1965)及び『アイヌの音楽』(1967、LP盤)を、地域差や時代差を比較する際の基準ないし指標に設定、『アイヌの音楽』収録曲の音楽分析を進めてきた。当初は音組織・リズム・歌唱形式・拍節構造・歌唱法など多角的に分析する予定だったが、1970年代以前の資料に顕著にみられる特徴的な歌い方(声の音色変化を優先して歌う、即興的変奏を繰返すなど)のため、予想以上に採譜等の作業に時間を要することがわかったため、ひとまず旋律全体を支配する1~数拍を単位としたサイクルの構造(拍節構造)にテーマを絞った。中でも奇数を単位とした拍節構造に着目し、2声部で交互に旋律を繰返す「音頭一同」形式での歌唱が拍節構造にも影響すると思われる例について考察し公表した(甲地2017)。 ③ 国の重要無形民俗文化財「アイヌ古式舞踊」の保持団体(17団体)のうち浦河・静内・白糠の3保存会を対象に、定例の練習日に見学し適宜聴取りを行うなどして、それぞれ現在上演できる演目や年間の活動状況等について情報収集した。また、各団体がそれぞれ独自に作成・使用している歌詞集などの提供も受けた。うち白糠アイヌ文化保存会は採録への積極的な反応があり、かつ今年度内の採録が日程的に可能であったため、数回の打合せ後3台の動画撮影カメラでの採録を実施した。採録資料は北海道博物館で登録・整理・編集後、同館図書室で一般利用に供するとともに同保存会で活用できるよう還元する予定。
|