研究実績の概要 |
本年度は,側鎖に水素結合能を有するイミダゾリル基をもつポリチオフェン誘導体を設計,合成し,得られた化合物の光学特性の解明とフォルダマーを形成する条件について検討を行った. まず,モノマーとして窒素上を保護したイミダゾリル基をもつチオフェン誘導体を合成した.モノマーのGrignard試薬を調製した後,ニッケル触媒を用いた触媒移動型連鎖重合によりポリチオフェン誘導体を合成した.得られたポリチオフェンを酸性条件下においてイミダゾリル基上を脱保護し,水素結合能を有する標的化合物を得ることに成功した.得られたポリチオフェオンは,溶媒留去することで不溶となるが,ピリジンを溶媒とすることで溶解できることを見出した.これはイミダゾリル基が水素結合ネットワークの基盤となる骨格であることを示唆しているとともに,ピリジンにより水素結合ネットワークを阻害することも可能であることを見出した. また,得られたポリチオフェン誘導体の吸収特性を検討したところ,水素結合を形成可能な脱保護したポリチオフェンは,水素結合能を持たない保護されたポリチオフェンに比べて短波長シフトした吸収極大を示した.また,非極性溶媒中での溶媒依存性や昇温に伴う顕著な温度依存性を発現することを見出した.これは,水素結合を形成することでポリチオフェン骨格に顕著な電子的摂動が加えられたためであると考えらる.吸収特性の変化と分子構造,モルフォロジーの間の相関について詳細な知見を得るために,AFMによる観察を行ったところ,ピリジン溶液中ではポリマー鎖単層に相当する高さの粒子として存在しているのに対し,トルエン溶液中では数層に対応する高さの粒子を形成していることを見出した.これは,低極性溶液中では水素結合により何らかの高次構造を形成していることを示唆する結果であり,標的のフォルダマーの構築の条件について重要な知見を与える結果である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,得られたポリチオフェンが自発的にフォルダマーを形成する条件を確立し,フォルダマーとしての光・電子機能の発現を見出す.まず, 溶媒としてピリジンとキシレンなどの低極性溶媒の混合溶媒を用い,高希釈条件下においてピリジンとの水素結合を切断しつつ,イミダゾリル基同士の水素結合ネットワークの形成,フォルダマーの構築,結晶化を促進する条件を検討する.フォルダマーの自発的形成が見られない場合は,サルフラワーやカーボンナノチューブをテンプレートとしてフォールディングを誘起する.次に,各種分光手法(NMR,UV-Vis-NIR吸収,蛍光,IR,CD)や電気化学的手法(CV)により電子構造を解明し,X線回折構造解析(単結晶,粉末)や各種顕微鏡測定(AFM,STM,SEM,TEM)により,フォルダマーの構造を明らかにする.これらと同時に,分子軌道計算を用いた構造最適化,電子構造解析を行い,実験結果との比較を行う.また,上記の測定の温度依存性を調べることでフォルダマーの安定性を見積もるとともに,分子スプリングとしての機能を見出す.さらに,側鎖に不斉中心を導入したモノマーを用いて,ヘリシィーをもつフォルダマーの構築を行い,単分子の導電性についてTRMC法を用いて見積もる. さらに,フォルダマーを積層,凝集させた会合体,超分子の構築と機能の開拓を試みる.フォルダマーの上端および下端の水素結合部位やチューブ構造の空孔を利用し,適切な溶媒,温度,ゲスト分子などの条件を選択することで高次構造を構築する.各種分光手法,X線回折構造解析,各種顕微鏡測定により,フォルダマー集積体の構造の解明と機能発現を試みる.
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