本年度は,水素結合によりループ構造をもつπ共役高分子を構築するために,イミダゾール環を縮環させたチオフェンを構成単位にもつオリゴマー,ポリマーを設計,合成し,得られた化合物の基礎物性の解明と機能の探索を行った. まず,イミダゾール上の窒素部位を保護したモノマーを市販の原料を用いて5段階の反応により合成した.次に,得られたモノマーのホモカップリング反応,続く脱保護によりモデル化合物である2量体を合成した.得られた2量体は,対称な分子構造をもつ前駆体を用いたにもかかわらず,非対称な分子構造をもち,イミダゾール部位間において分子内水素結合を形成していることが明らかとなった.これは,上記の合成法がπ共役骨格の立体配座および立体規則性を制御できる手法であることを示している.さらに,溶解性を向上したモノマーを用い,直接的芳香族アリール化,続く脱保護により,ポリマーへの拡張にも成功した.得られたポリマーは,核磁気共鳴スペクトル,赤外分光法および原子間力顕微鏡の測定により,水素結合ネットワークの形成によりループ状の2次構造を持つことが示唆された.保護基をもつポリマーは,分子内水素結合を形成せず,立体障害によりねじれた主鎖をもつため紫外-可視光領域にのみ吸収極大を示した.これに対し,脱保護したポリマーは,水素結合ネートワークにより主鎖が平面構造となることで,π共役が効率的に拡張し,空気雰囲気下において酸化され,近赤外-赤外領域にわたり幅広い吸収を示した.また,得られたポリマーの塗布薄膜は,酸化状態に起因してドープすることなく導電性を示すことを見出した. この成果は,π共役高分子の特異な2次構造の構築手法,2次構造に特有な電子構造について重要な知見を与えるとともに,分子ソレノイドとしての応用の可能性を示したという点において意義深い.
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