個体への環境ストレスや個体の老化により、精巣の精子形成能力は低下し不妊となる。しかし、精巣細胞のうち精子幹細胞は0.02-0.03%の割合でしか存在しないために、詳細な解析は非常に困難であり、精巣内で精子幹細胞がどのようなメカニズムにより精子形成能力を維持しているかは、十分に理解されていない。本研究において申請者は、まず生体外で精子形成能力を維持しながら培養が可能な精子幹細胞(GS細胞)と精子形成能力を失ったdGS細胞(defective GS細胞)を遺伝子発現量の変化を確認した。その結果、がん・精巣抗原遺伝子に属する30遺伝子の発現量が有意に減少していた。その中でも特にがん細胞においてエピジェネティックな変化を誘導することにより、遺伝子発現を活性化していることが報告されているCtcfl(別名Boris)に着目し、dGS細胞において過剰発現を誘導し、精子形成能が回復するか検討している。GS細胞の移植技術習得に時間がかかったため、まだ結果は明らかになっていない。 また、多くのがん・精巣抗原遺伝子はファミリー遺伝子と80%以上相同配列であるだけでなく、遺伝子座が複数あるため遺伝子欠損を用いた遺伝子解析は困難である。そこで本研究では、ゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9システムを応用した遺伝子発現制御システムの開発にも取り組んだ。
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