近年、粘膜組織、特に腸管におけるユニークな免疫応答が注目され、疾患と腸内細菌叢との関連に対する研究が世界中で競争的に研究が進められている。今までの研究では、主に小腸・大腸に注目し様々な報告がされてきたが、「胃と細菌叢」に関する報告はほとんどない。胃は摂取した食物を消化する為に強酸性に保たれており、よって今まではその役割から細菌叢の免疫学的な意義は低いという認識であった。しかしながら申請者の研究により、胃にも免疫学的に重要な役割が存在し、そしてこの応答は主に細菌によって誘導される2型自然リンパ球によるものである事も明らかになってきた。胃は食物を分解・殺菌する為だけの臓器では無く、食事摂取と同時に上昇する感染のリスクを化学的および免疫学的に制御することで、腸管に到達する前に細菌叢の“選別”を行う重要な臓器であることが示唆された。自然免疫とは生体防御に働く抗原非特異的な免疫応答であり、様々な感染リスクが存在する中で必須の免疫応答である。その中でも、近年注目されている自然リンパ球(Innate Lymphoid Cells; ILCs)は3つのグループに大別され、一般的な自然免疫細胞と獲得免疫細胞の中間的な役割を果たして様々な疾患や感染防御に重要であることが判明している。上述の理由により胃に存在するILCsの解析を行ったところ、2型のサイトカインを産生するILC (ILC2)がほとんどのILCsを占めていることが判明した。そして、このILC2sは特にIL-5やIL-13を産生しB細胞を活性化してIgAの産生を誘導していることも明らかとなり、胃に存在する特定の共生細菌特異的排除に働いていた。病原性細菌として知られているH.pyroli感染時にも同様に、分化・誘導されたILC2sがIgA 産生を介して細菌の排除に働いていた。以上により、胃に存在するILC2sが細菌叢と相互作用を行い、体内の細菌叢コントロールを行っていることが明らかになった。(論文投稿準備中)
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