研究課題/領域番号 |
15H06884
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
木村 由莉 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, 研究員 (50759446)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 脊椎動物化石 / 生物地球化学 / 小型哺乳類 / 生物進化 |
研究実績の概要 |
スタートアップとして開始した本研究は,動物生態系の下位層を幅広く占める多様な小型哺乳類化石を進化生物学へ応用することを目指し,ニッチ競争という生物学的要因が形態進化にどのような影響があるのかをテーマとしている.プロジェクト材料には,ネズミ類の移入によってキヌゲネズミ類が衰退するという事象に着目して,これら2つの小型哺乳類グループを選んだ.パキスタン地域で約500万年間という長時間スケールで共存した2グループで形態的戦略と食性の適応進化がどのように起こったのか解明することを目的とした.
従来,小型哺乳類化石は,直接年代を測定することができない陸源堆積物の年代を推定するための生層序学や,現生生物の生態データを化石種にスライドさせて哺乳類の構成種から生息環境を推定するような研究に用いられてきた.分析機器の発展により,微小な歯化石からも安定炭素・酸素同位体比を分析することが可能になり,生物地球化学を用いた食性の推定が小型哺乳類でも行える環境が整いつつある.しかしながら,主に雑食性である小型哺乳類において,大型草食動物を対象に行われている同位体比による食性の研究ができるかはまだ未知の領域である.
本年度は,二酸化炭素レーザーを歯エナメル質に照射して,そこに数%含まれる炭素の安定同位体比を測定することで,同位体比として現れる食性の進化を追跡した.具体的には,ネズミ類が出現によって生態ニッチが犯されたキヌゲネズミ類の食性が抑制されたという仮説を検証するために研究を進めた.限られた初見データでは,優勢な動物(ネズミ類)の出現によって劣勢な動物(キヌゲネズミ類)の食性が抑制されることは認められなかったが,生態ニッチの競争では体の大きさよりも系統の近縁性が重要なファクターであるという傾向が認められ,研究の方向性を見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進歩状況は「やや遅れている」と自己評価する.ただし下記2点以外は.順調に研究を行っていると評価する. (1)エフォート率の下方修正 スタートアップ申請時は博物館業務経験が無かったため,周囲の研究者の実績等からエフォート率を35%と予想し,申請した.しかしながら,通常業務のほかに,2つの特別展の補助があり,実際のエフォート率は25%程度に留まった.これは博物館事業において魅力的なコンテンツである脊椎動物化石分野における研究へのエフォート率としては,決して低いものではないことを強調する. (2)破壊分析前の歯化石のレプリカ作製の増量分 標本の取り扱いに関する事項として,地球化学による破壊分析の前にレプリカ標本を作製することとなった.当初は代表的な標本についてのみレプリカを作製するとの約束であったが,最終的には使用する全ての標本に対してレプリカを作製することになった.そのための化石クリーニング,シリコン型作製に多くの時間を割くこととなった.
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今後の研究の推進方策 |
同位体比として認められる食性の違いを議論するために2つの動物グループの形態的な戦略を調べる必要がある.歯形態を抽出するために,2次元データと3次元データを用いる.2次元データは,顕微鏡下で計測する値と,画像データから起こす座標データの両方を用いる.3次元データには,日本大学歯学部でマイクロCT画像を取得する.日本大学歯学部の研究者とは密接に連絡を取っており,マイクロCT画像の取得はスムーズに行えるはずである.
上記した,進歩状況の問題点であるが,業務経験が無い状態で申請した昨年度よりも,今年度の方がより現実的なエフォート率でプロジェクトを遂行することが可能である.増量分のレプリカについても,分析に使用した標本のシリコン型は全て作製し終わり,今後レプリカ標本に費やさなければならない時間は最小限で済む.やや遅れているという進歩状況は改善すると考える.
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