本研究では、先天的な触覚機能の過敏・鈍麻傾向がある人たち(発達障害がある児童など)の知覚異常を客観的に評価する手法の実現に向け、触覚の質感情報を客観的に評価できる刺激呈示デバイスの実現を目指している。本年度は、発達障害がある児童が苦手と言われている痒みや痺れといった痛みに起因した刺激を客観的に評価するため、それらの刺激を人工的に惹起させる触覚刺激呈示デバイスの試作とその評価を行った。刺激呈示方法には、温度刺激と振動刺激を呈示する2つの物理刺激の呈示と、被験者が刺激呈示デバイスの表面に触れている時に生じる荷重を調整するものを採用し、それぞれの物理刺激を呈示することができる電子素子と荷重計測用の電子素子を組み合わせたデバイスを試作した。計測実験では、触覚の知覚異常がない健常被験者に対して、痛みに関連する聴覚的な表現(ちくちく感、ずきずき感など)を含んだ複数の触覚の質感情報に関する擬音語(オノマトペ)を用いて、デバイスが振動や温度などの複数の刺激を組み合わせて指先に呈示した。その場合に、被験者が痛みに起因した刺激を知覚しているかという点について、評価に用いる擬音語に対して7件法の尺度で評価してもらい、提案したデバイスの有効性を評価した。はじめに、デバイスが振動や温度など独立して呈示する刺激を用いた場合、被験者はぶるぶる感やほかほか感といった質感情報を知覚していることがわかった。加えて、デバイスが複数の刺激を組み合わせて呈示した場合、被験者らが知覚する痛みに関連する表現の回答には尺度値に個人差が見られたことがわかった。今後、この研究をさらに発展させるため、本研究で開発したデバイスを用いた主観的な指標での評価に加え、脳機能計測などの客観的な指標と組み合わせて、触覚の質感情報を評価し、さらに発達障害がある児童を被験者とした評価実験へと展開する予定である。
|