本研究では、近年多くの活動銀河核で発見されている超高速アウトフローという現象に着目し、X線観測衛星ASTRO-H(ひとみ)による超高感度観測を実現することで、その形成機構及び物理的性質を明らかにすることを目的とする。
今年度は、昨年度末に打ち上がったひとみ衛星に搭載された硬X線撮像検出器(HXI)の軌道上データの解析を行った。具体的には、HXIの軌道上バックグラウンドの解析により、衛星の外部に搭載された硬X線観測機器のバックグラウンドの主要因を突き止め、その成分を約1桁低減させる方法を確立した。また、カニ星雲の観測データと地上較正試験データなどを用いて検証することで、検出器応答関数の精度を約5%以下にまで向上させることに成功した。ひとみ衛星は昨年度末に通信途絶してしまったため、ひとみ衛星による超高速アウトフローの観測は実現できなかったが、ひとみ衛星の軌道上での動作を検証することは、将来のX線観測衛星を計画・設計する上で極めて重要である。
ひとみ衛星のデータ解析と並行して、既存のX線観測衛星による超高速アウトフローの観測データの解析も行った。我々が独自に開発を進めてきたモンテカルロ計算による超高速アウトフローの精密なX線スペクトルモデルを用いることで、従来はブラックホールスピンにより広がった鉄輝線によると解釈されていたX線スペクトル構造を、超高速アウトフローによって説明することに成功した。これは、超高速アウトフローにみならず、ブラックホールの基本的な物理量であるスピンの測定に対しても大きなインパクトのある結果である。
|