「交易の時代」における海域アジア交流史の研究は、史料の豊富な東南アジア島嶼部を中心に語られることが多く、人や情報の動きからの考察が主流であった。本件研究では、インドシナ半島内陸部を流れる河川の出口である、ベトナム北中部のゲアン、ハティン地域において考古学調査を実施し、ラム川をハブとした内陸部と海域アジアの交易について研究した。 平成28年度は、初年度に引き続き発掘調査を実施した。今年度は、河口部の港の位置と交易様相解明のための資料をえるため、ハノイ国家大学歴史学科およびハティン省博物館の専門家と申請者が共同で、ハティン省ホイトン地区において、平成28年9 月にトレンチ調査を実施した。発掘調査では、陳朝から黎朝のベトナム陶磁器や、明朝から清朝の中国陶磁器、江戸時代の日本の陶磁器などが多数出土し、貿易港としての様相を確認できたと同時に、インドシナ半島を横断する東西回廊の海への出口としてのゲアンの役割を交易品の生産、流通、消費の流れにスポットを当てて考察するための、良好な資料をえることができた。 発掘調査で出土した遺物の洗浄、統計、実測作業までは現地において実施し、平成29年1月から3月には、日本において遺構、遺物写真などの整理、遺構図面や遺物実測図のトレースなどをおこない、報告書作成の準備を開始した。 また、平成28年8月には、世界考古学会議(京都)において研究の成果を発表した。海域アジアの交易ネットワーク研究に東南アジア大陸部からの視座を投入した本研究成果を国際学会において提示したことで、ゲアン研究を国際的な新たな研究フィールドに押し上げるブレイクスルーとなった。また、平成29年5月に開催される日本考古学協会総会の研究発表において本研究の成果発表することが決定している。
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