水酸化鉄はその高い吸着能を介して環境中のさまざまな有害元素の挙動を支配する。そのため、有害元素の環境挙動を理解する上で重要な鉱物として、これまで無機水酸化鉄を使用して多数の吸着実験が行われてきた。しかしながら、天然に幅広く存在する水酸化鉄は、微生物由来(Biogenic iron oxyhydroxides:BIOS)と考えられている。BIOSは水酸化鉄に加えて微生物由来の有機物を含むため、無機水酸化鉄の吸着能をBIOSが支配する天然に外挿できない可能性が高い。以上の背景をふまえ、本研究ではBIOSと無機水酸化鉄の吸着能の違いを把握したうえで、その違いを生み出すメカニズムを明らかにすることを目的としている。陽イオンであるセシウムおよび陰イオンであるセレンを対象に吸着実験を行った結果、両元素に対してBIOSと無機水酸化鉄で異なる吸着能が示されることが明らかになった。特に、セシウムはBIOSへの吸着量が無機水酸化鉄よりも多い。一方で、セレンの吸着は無機水酸化鉄の方がBIOSより多いことが明らかになった。さらに、同一元素の中でも6価のセレンは4価のセレンよりもpH変化による吸着量の変化が大きく、BIOSと無機水酸化鉄間の吸着量の差も大きかった。以上の結果より、天然の水酸化鉄(BIOS)は、無機水酸化鉄と比較して陽イオンをより吸着しやすい一方で、陰イオンの吸着は阻害されることが示唆された。
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